海外ドラマ「タイムレス」エンド曲「Let it shine」を歌うゴスペラーズ インタビュー

――「最初に楽曲タイアップが決まった時の率直なご感想をお願いします。」

安岡さん「『Let it shine』は、恋愛において「もしあの時自分が別の行動をしていたら僕ら二人の未来はどうなっていただろう」というラブソングなので、まさにぴったりだなと思いました。このドラマを拝見した後に、もう一回、自分たちの曲を聞いてみると、より僕らの歌の情景が広がっていくような感じがしました。」

――「『Let it shine』に関しては、安岡さんが作詩を担当されたという事ですが、もともと構想としてあった曲を活かされたという形ですか?」

安岡さん「選んでいただいたという感じですね。」

――「歌詩の、「もう戻れない」といった部分は、作品をイメージして変更したのですか?」

安岡さん「それは違うんです。全くの偶然なんです。ちょっと怖いくらいですね。まるで、僕がタイムマシーンに乗って先にこのドラマを観てから書いたかのような歌詞になっていますよね。「あの日あの時、世界は形を変えたよ」なんて言うフレーズは、本当にドラマと完璧にシンクロしていて、自分でも何か怖い感じです。」

黒沢さん「全然そんなこと、本当に欠片も思っていなかったんで。」

北山さん「今、YouTubeで『Let it shine』を使った特別映像が公開されていますけど、本当に曲と映像がマッチしていて、(自分たちの曲なので)知っている曲なんですけど、違う曲のような気がして、鳥肌が立ちましたね。」

村上さん「スケール感がね!」

安岡さん「最初はラブストーリーとして書いたんですけどね。」

酒井さん「(歌詩の)『この炎』はヒンデンブルグの炎にしか思えなくなってくる。」

北山さん「“僕”と“君”の二人の話だったはずが、突然時空を超えて本当に“タイムレス”になっちゃったなと思いましたね。」

安岡さん「僕らにとっても、この曲を作っていた【過去】と、ドラマと出会うという【未来】が思わぬ形で繋がるような、そんな出会いでした。」

――「作詩される時は、実体験をもとに作るのでしょうか?」

安岡さん「すべてが実体験では無いんですけれども、いつも心がけているのは『こういうシチョエーションの中では、僕ならどう行動したいと思うだろう』っていうところをぶれないようにしようと思っていますね。いろんな季節の歌やいろんな想いの歌など、沢山の曲を書いてきたんですけど、その歌のそのシチュエーションの中で、僕なら実際どうできるか、どういう人間でありたいか、というのはぶれないように作ってきました。」

――「皆さんはドラマをご覧になっているとお伺いしておりますが、それぞれどんな印象でしたか?」

村上さん「つい昔のことを振り返って今を変えてみたかったりするんだけど、いろんな間違いとか悲劇っていうのは、絶対起きている。でも今あるものを守ろうっていうことは、大きな流れとしての歴史と、自分自身の歴史みたいなものを並べて考えるというしっかりした価値観っていうものがこのドラマの中にあるにもかかわらず、ちゃんとエンターテインメント作品になっているなって思いました。このあとも話が展開していく中で、実際の歴史的な事件もすごく勉強になるなって。その事件の大枠は知っていたとしても、その時に人がどう動こうとして、どう動かなかったのか、その後どうなったっていう事もいっぱい出てくると思うけど、一話一話追いかけていくと自分もちょっと深くなれそうな予感がします。」

黒沢さん「タイムパラドックスが起こって、一話で急に未来が変わるっていうところがありますけど、変えようとしても変わらないものがあって、さらに歴史は歴史で辻褄を合わせようとする。誤差があっても、死ぬべき人は死ぬようになっているっていうのが一話で提示されていて、すごくびっくりしましたね。「こういう世界観なのね。」って思いました。その中で、もがいている人たちの話なんだっていうのが良くわかりました。あとは、推進力になる人、公の事を気にしている人、逆に個人的な事を気にしている人が揃うと、ドラマってすごく振り幅が大きくなりますよね。「なんでこの人を任命したの?」みたいな人っているじゃないですか(笑)。でも2話、3話と進んでいくにつれて、和解して仲間になっていくと、そういうところもすごく「いいな」と思います。」

安岡さん「いわゆるタイムマシーンものって、H.G.ウェルズ(※1)の時からずっとあるじゃないですか。だから、僕らも見ながらいろんな映画の知識で「これだったらこうやって解決すればいいんだよ」って、この登場する三人と同じ気持ちで見るんです。でもこのドラマにしかない設定がどんどん足されていくので、新しいルールというか、「あっそれじゃ駄目なのか」「前と同じやり方じゃダメなんだ」みたいなのがあって、自分が知っているタイムマシーンの話を超えていくような設定がどんどん出てくるので、ワクワクドキドキしながら観ています。本当に続きが観たくてしょうがないです!」

酒井さん「僕が一番素晴らしいと思ったのが、主人公のチームに歴史家がいることですね。なぜ選ばれたかっていうと、できるだけ歴史に影響が無いようにするために、目立たないように動ける。そして歴史にむやみに触れないためには、その時歴史で何が起こったか知っている人がいたほうがいいんだっていう点がものすごく好きですね。タイムマシーン、タイムパラドックスの作品は沢山ありますが、観客、聴衆、読者を引き込むために、どこにでもいる人物を過去に送ることが多いと思うんですよ。そういう人物が過去に行っちゃった日には、全くの役立たずになるか、未来大改編が起こったりすると思うので、そこがすごく緻密というか丁寧にやっている気がして、とても好きですね。」

北山さん「実は僕、『スーパーナチュラル』のファンなんです。なぜ『スーパーナチュラル』があんなに人気になったのかは色々と理由があると思うんですけど、例えば毎回コスプレをする事になるとか、主人公が必ずいろんな服で現れるのが良いなと思ってるところあったんです。だから今回も、必要に駆られていろんな時代のいろんな恰好を見ることができる。しかも、その職種もその場によって変わっていったりするので、観ていて楽しいっていうのがあると思います。ほかにも、「うまいことできてるな」と思ったのは、最初の小さい謎から大きな謎まで畳み掛けるように解決するものと、全然解決しないもの、そして謎がずっとたくさん出てくるスピード感もいいなと思いました。僕が個人的に好きだったのは、妹の写真ですね。ちょっとネタバレになるかも知れないんですけど、タイムパラドックスの外にあるものが帰ってくるっていう設定で、あんまり見たことが無いというか、ぐっと引き寄せられる所がありました。もともと歴史ものが好きで、あんまりこういうSFは興味ないっていう方や、歴史はそんなに詳しくないけどSFは好きっていう方も、どちらでも楽しめるっていう、むしろ入り口のような作品になっている気がします。もちろん、人間ドラマとしても濃いですし、「どうなるんだろう」という疑問がたくさん刺さっている状態なので、早く抜いて欲しいですね(笑)。」

――「ちなみにタイムマシーンがあって過去に行けるとしたら、ここはやり直したい!といったものはありますか。」

安岡さん「ライブでの失敗かな(笑)。マイクを持たずにステージに出ちゃったりしたこととか。ほかにも、持っていかなきゃいけない小道具を持たずにステージに出ちゃったりしたことがあるんで、直せるものなら直したいっていうのはあります。盛り上がったけどね。」

村上さん「お客さんにとっては、それほどっていうミスでも、自分たちとしてはやりたくないミスっていうのはあるじゃないですか。でも他の人のステージで突然歌を忘れて困ってるのを見て、見ているぶんには意外とあるあるなことだし、そういう場面を見れて良かったっていうのもありますけどね。ただ、自分もそういう事をやってしまったのを思い出すたびに考えるんですけど、いつまでたっても慣れないですね。」

北山さん「このドラマの設定としては、本人が行っちゃうと死んじゃうから、手紙を送ることぐらいしかできないってことか。」

酒井さん「“今日はチャックを締めろ”」

安岡さん「あー!僕らが一番恥ずかしかったのは、チャックを締めずにステージに出ちゃった時だね。」

――「ゴスペラーズ以外のところでは、やり直したいことはありますか?」

村上さん「高校でサッカーをやってたんですけど、大学でやっていたらどうだったかなぁとかですかね。ちょうど自分が高校生の時にJリーグが始まるって話が出てきたんですよ。大学でサッカーを続けていたら、選手じゃなくても何か道はあったのかなと。うちの高校の先生が早稲田のキャプテンだったこともあって、「お前ら後輩のために俺がせっかく早稲田に入ったんだから、レギュラーになれなくてもいいからサッカーやってくれ」って言われて「その気持ちはわかるけど俺の人生だから!」って思いました(笑)でも先生としては、僕らの代から久々に早稲田に入って、後輩の為にもパイプを作ってほしかったみたいですね。」

安岡さん「僕は子供のころから引っ越しの多い家だったんですけど、幼稚園2つ、小学校2校、中学校2校といった感じでした。だから、もし引っ越しや転校が無くて、福岡で生まれて福岡で育ってたら、東京の大学でこうやって仲間と会う事も無かったですし、多分ゴスペラーズにはなってなかっただろうなとか、途中、名古屋のままだったらどうなってただろうとかは考えますね。多分、どの引っ越しの一つでも欠けていたら、今と違う人生になってたと思いますね。」

村上さん「博多のままだったら、もっと酒飲みになってたね(笑)」

安岡さん「多分音楽性が違ってたね、ロックになってた。」

北山さん「今の仕事にも関係するんですけど、昔ピアノを習っていて、一回辞めてその後すごくいい先生に巡り合って、「このままピアノを真面目にやろうかな」って思った時に、その先生が悪い男に騙されて駆け落ちしたんですね。だから、その時の自分の所に行って「くじけるな、別の先生に来てもらったってできるし、お前はまだピアノを続けられるはず」だと言いたいです。その後意気消沈してピアノ辞めちゃったんですよ。だからそこに行って、「お前はまだピアノができるはずだ」って言いたい。そうすると今でもピアノがもう少しできて、ゴスペラーズでも楽できたかもしれないですから。」

酒井さん「北山がタイムマシーンに乗り込むシーンが目に浮かぶね。」

――「今回は、曲ができた後でタイアップって形になったと思いますが、逆にドラマができて曲を作ろうってなった時にこんな曲をやりたいっていうのはありますか?」

黒沢さん「我々は曲としてアップテンポのものもあるんですが、思ったほど世間的に認知されていないんですよ。昔からのファンの人はわかってくれているんですけど、一般的にはバラード、アカペラのイメージなので、ちょっとアップテンポな元気な曲をやってみたいです。」

安岡さん「僕らは昔の刑事ものドラマの世代なので、そういう作品の曲に良いものいっぱいあったじゃないですか。刑事ものであったり、探偵ものであったり。」

村上さん「大体、井上(堯之)さん(※2)がギターを弾いてね。」

黒沢さん「大野克夫(※3)さんとかね。」

安岡さん「昔の日本のドラマの主題歌ってハードボイルドだったよね。」
村上さん「ハードボイルドっていうのは、僕らの対外的なイメージとしてはあんまりないかもね。」

安岡さん「でも意外とハードボイルドな曲とかもあったりするので、なにかハードボイルドな作品に書きおろしてみたいって気持ちはあるよね。」

北山さん「せっかくストーリーの力を借りて別の世界に行けるんだとすると、僕らの持ってるイメージじゃないところに行きたい。みんなが驚くようなことがしてみたいっていうのはありますね。」

酒井さん「音の衣装を着るのがゴスペラーズのやり方で、この5人分の声に今っぽいバックトラックが付いているときもあれば、古いのをあえて着てみることもあるんだから、これはある意味『タイムレス』っぽいですよね。その時代の衣装を着て行きますから。
だから、私は和物がやりたいね。時代劇がやりたい。そこにハーモニーは無いと思うんです。日本古来の音楽には和声っていうのはあまり無くて、例えば昔の伝統芸能にハモリの概念は無いですから、そういったようなところに切り込んだら面白いと思いますよ。」

――「『Let it shine』についてもう少しお伺いしたいのですが、この曲を始めて歌われた時の感想をいただけますか。」

安岡さん「この曲は、若い世代の堀向彦輝くんというクリエイターが作ってくれているんです。本当にいろんなフレーズをいろんな口で歌い継ぐ、ボーカルグループの為の曲のフォームになっているので、歌い甲斐のある曲だなと思いました。前の人の歌声を聞いて、次は自分の歌い方の世界を作っていくので、レコーディングの当日も、自分の一つ前に歌うメンバーがどんなふうに歌うんだろうっていうのを見て、聴いて、「じゃあ自分の歌い方はこうしよう」とか、そういう事を決めていった感じですね。」

村上さん「この曲が元々持っている旋律感が、冷えた情熱っていうか、すごいクールだけど何かを内に秘めた感じがあって、緊迫感のある曲なんですよ。暖かく包み込むような曲ではないけどかっこよさがあって、その世界を壊さないようにっていう想いがありましたね。デモテープは英語だったんですけど、クールさが保たれている感じがあって、それを日本語にして分かりやすい表現にしていくときに、その質感、冷えた熱みたいなものを伝えたいなと思った時に映像と合わさって、緊迫感の連続みたいなところと、緊迫感と抗う力みたいなところと、最初に曲を聴いたときのイメージが合ったなぁと思いました。結果的にその緊張感を持ちながら切なさを吐き出すみたいなところを、スタジオでは意識していましたね。」

北山さん「元のデモテープの時点で、めちゃくちゃかっこよかったですからね!でも、その曲をいかにゴスペラーズ色に染められるか楽しみでした。」

――「レコーディングはバラバラに録られたんですか?また、レコーディングが終わったら、次の人にプレッシャーをかけられたりするんですか?」

北山さん「基本的に一人ずつですね。プレッシャーというか、実際にブースに入って前の人の歌を聞くと、自分はどんな風に歌おうかという緊張感は感じます。」

酒井さん「リレーのバトンパスをする時の緊張感に似ているよね。」

北山さん「必ずしも受け取りやすいボールを投げていればいいわけじゃなくて、剛速球を投げなくてはいけない曲もありますけどね。」

安岡さん「(『Let it shine』は)僕らの曲の中でもバトンパスが多い曲なんです。」

村上さん「カラオケで歌うには中々難しい曲になっていると思います。音楽的にも、メロディーのリズムがかなり難しいんですよ。」

北山さん「(カラオケのモニターだと)普通は歌い分けのために、(歌詞表示が)クローバーとスペードで色分けされるじゃないですか。でも5人だと足りない(笑)1人ジョーカーにならないといけなくなっちゃう。」

酒井さん「実家の同級生に、「お前たちの曲歌いにくいんだよ」ってまた言われちゃう。」

安岡さん「リードボーカルがチェンジした時、歌詩の持つ背景が変わっていくのを楽しんでほしいですね。まさに『タイムレス』の世界観に似ているんじゃないかなと思います。」

――「最後に、作品を楽しみにしている視聴者の方々に一言ずつお願い致します。」

村上さん「僕らも序章の部分しか観ていませんが、『タイムレス』を観ることで自分の知らない知識も手に入るだろうし、「自分だったらどうしようかな」と考えさせられますね。自分のことを改めて知る機会にもなるんじゃないかと思います。」

黒沢さん「観たあとに、実際の歴史はどうだったか調べてみるといいかなと思います。あとは、ラブストーリー的なシーンが沢山あるので、そこも楽しめると思います。」

安岡さん「ドラマを観ている1時間だけを楽しむんじゃなくて、次の放送を待つ1週間で「あのシーンはどんな秘密があるんだろう」と考える時間も、この作品の魅力ですよね。『Let it shine』が、皆さんの考える時間を手助けする曲になればいいなと思います。」

酒井さん「綺麗にまとめてほしいという気持ちと、「終わらないでくれ」という気持ちが出てくる作品です。皆さんも是非シーズン2に一票をお願いします(笑)」

北山さん「僕が『スーパーナチュラル』を好きな理由は、ストーリーはちゃんと進めつつ伏線を長い間放っておいたりするんですけど、最後はしっかりまとめてくれるんです。(企画・脚本・製作総指揮が同じ人物である)『タイムレス』もストーリーや仕掛けがしっかりしているなと思うので、それこそシーズン2以降の構想を考えて最初の数話を作っているのかなと感じました。そういう意味では、安心してはいるんだけど、どういったところを新しい手法で見せてくるんだろうという部分が楽しみで、海外ドラマを観ている身としては、いいところがたくさん寄せ集められた作品だなと思いますので、今後の展開にも期待しています。」


※1…イギリスの作家。ジュール・ヴェルヌとともに「SFの父」と呼ばれる
※2…元ザ・スパイダースのギター、ボーカル。『太陽にほえろ!』や『傷だらけの天使』などのBGMを担当。
※3…元ザ・スパイダースのオルガン、スチールギター。井上堯之と同じく『太陽にほえろ!』のBGMや、沢田研二の楽曲を多く作曲。

以上