怪談と言っても、これはかなりの変化球である。封切当時も異色作、怪作と言われたが、その印象は今も変わらない。
原作は、もちろん鶴屋南北の「四谷怪談」。民谷伊右衛門が萩原健一、おいわが高橋恵子、監督が演劇界の奇才、蜷川幸雄だから、普通の、ただ「怖い」怪談になるはずがない。
四谷怪談というのは忠臣蔵の外伝である。浅野家、吉良家の因縁がここにも引き継がれる。民谷伊右衛門は旧浅野家の家臣である。妻は、いわ。それに赤ん坊が三人。何とかその日暮らしをする浪人であった。
隣家の吉良の家臣、喜兵衛の娘うめが、伊右衛門に恋焦がれることから、彼の道が逸れていく。仕官の道を探していた伊右衛門はこの誘いに乗り、いわに毒を盛るのだが……。
映像も怖くないことはないのだが、それ以上に無軌道な青春群像に仕上がっている。フリーター、ニートの若者たちが、自分の居場所を求めて、時に犯罪に走ってしまう。そんな怖さが伝わってくる。
おいわの霊に憑かれた伊右衛門をショーケンこと萩原健一が怪演である。萩原健一、高橋恵子のコンビには後に『恋文』という、実にしっとりとした秀作があるのだが、ここでは全く色合いが違っている。なお、いわの妹そでの役は夏目雅子だった。
一風変わった蜷川幸雄版「四谷怪談」、ショーケンが怪演『魔性の夏 四谷怪談より』。
スタッフ: 製作:宮島秀司、織田明/監督:蜷川幸雄/原作:鶴屋南北/脚本:内田栄一/撮影:坂本典隆/音楽:千野秀一/美術:芳野尹孝/照明:八亀実/録音:原田真一/編集:杉原よ志キャスト: 伊右衛門:萩原健一/いわ:関根恵子/そで:夏目雅子/うめ:森下愛子/ 宅悦:小倉一郎/直助:石橋蓮司/与茂七:勝野洋
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