小津作品の凄みとは、日常の背景にはとてつもなく大きな問題が控えていることを匂わせつつ、何ごともない日々が連なっているように見せるところにある。これは、まさに私たちの毎日の暮らしなのだ。
この『お茶漬の味』など、そうした小津作品らしさの典型だろう。
佐竹妙子(木暮実千代)が茂吉(佐分利信)と結婚してからもう七、八年が経つ。
二人は育った環境の違いからか、あまり相性が良くない。それでも、一緒に暮らしてきたが、何となく食い違いが大きくなっていた。
妙子は、茂吉には内緒で友だちらと遊びに出ることで鬱憤を晴らす。
姪の節子(津島恵子)が見合いの席から逃げ、それを機に妙子と茂吉との気持ちのすれ違いは、修復不能なまでに大きくなる……。
夫婦というものも、実は非常に脆く、危うい関係だと思い知る。しかし、登場人物たちがけっして深刻ぶらないあたりが、深い。
この作品は、戦時中に映画にしようとして脚本段階で検閲を通らなかったそうだが、その家族関係の危うさに焦点を当ているのが原因だろうか。
きっと他の監督が、このテーマを映画化し、なおかつ主演が佐分利信ならば、もっと重く、暗い作品になったはずだが、やはり小津映画はそうならない。ユーモラス、ともちょっと異なる。乾いているのだろう。
中年夫婦の倦怠感を冷静に見据えた小津作品『お茶漬の味』
スタッフ: 製作:山本武/監督:小津安二郎/脚本:野田高梧、小津安二郎/撮影:厚田雄春/音楽:斎藤一郎/美術:浜田辰雄/照明:高下逸男/録音:妹尾芳三郎/編集:浜村義康/助監督/山本浩三キャスト: 佐分利信、木暮実千代、鶴田浩二、淡島千景、津島恵子、笠智衆、三宅邦子、柳永二郎、望月優子、小園蓉子、十朱久雄、志賀真津子、設楽幸嗣、石川欣一、上原葉子
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