いまでは「フーテンの寅」以前の渥美清について、あまり語られることがないが、数多くの作、秀作で好演、ときに怪演をしているのである。この『拝啓天皇陛下様』なども、その一つ。
内容的には社会派喜劇とでもいうべき、重いテーマを扱っているが、当時は大ヒットを記録した作品だ。
農村出身の山田正助(渥美清)は幼いころ両親と死別し、苦労して成長してきた。それだけに、腹いっぱいの食事もでき、職業など無関係の軍隊は居心地のいい「天国」であった。正助はいつしか、ここでずっと働きたいと願い始める。
しかし、戦争は終わりに近づき、正助は天皇に宛てて「軍隊に残して欲しい」との手紙を書くのだが……。
粗野で単純で、しかし人情に厚いという主人公は、そのまま車寅次郎につながるわけだ。ただ、車寅次郎が寓話的であるのに対し、こちらの山田正助の生き方はリアルであり、ときに無残でさえある。
渥美清以外にも長門裕之、藤山寛美、西村晃、左幸子と芸達者ばかりが揃っていて、笑わせるだけでなく、見終わった後にいろいろと考えさせられる作品ではある。
Yahoo!映画オンラインシアターの『拝啓天皇陛下様』番組情報
渥美清のコミカルな演技のうちに、戦争という重いテーマをちゃんと伝える『拝啓天皇陛下様』。
スタッフ: 監督:野村芳太郎/原作:棟田博/脚本:野村芳太郎、多賀祥介/撮影:川又昂/音楽:芥川也寸志/美術:宇野耕司/照明:三浦礼/録音:栗田周十郎/編集:浜村義康キャスト: 渥美清/長門裕之/中村メイ子/左幸子/山下清(特別出演)/高千穂ひづる/藤山寛美
(C)1963 松竹株式会社(大船作品)
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