【イベントレポ】町山智浩が『別れる決心』を徹底解説…愛していると決して言わないラブストーリー

2023年02月13日13時00分映画

2月12日(日) 映画『別れる決心』の公開を来週に控え、TOHO シネマズ 六本木では、パク・チャヌク監督の『別れる決⼼』『お嬢さん』2本立て上映を開催し、町山智浩が徹底解説するトークイベントが開催された。オフィシャルレポートが到着したのでご紹介、予告動画などは映画公式サイトで公開中だ。

『別れる決心(原題:헤어질 결심/英題:Decision to Leave)』は、刑事と容疑者が惹かれ合う 珠玉のサスペンスロマンス。監督はパク・チャヌク、脚本はパク・チャヌクと彼の盟友であり Netflix「シスターズ」も話題のチョン・ソギョンと共に手掛ける。主演はパク・ヘイルとハリウッドにも進出しているタン・ウェイ。



《映画『別れる決⼼』町⼭智浩トークイベント 概要》
◆⽇ 時︓2⽉12⽇(⽇) 17:00〜17:30
◆場 所︓TOHO シネマズ六本⽊
◆ゲスト︓町⼭智浩(映画評論家)※オンラインにて参加(敬称略)


上映後には、在⽶映画評論家の町⼭智浩をオンラインゲストとして招き、最新作『別れる決⼼』を徹底解説しま。まずは、映画を⾒たばかりの観客からの質問を募集し、最初に《この映画では、主題歌に『霧』という曲が使われ、霧の街も描かれているが、これはソレ(タン・ウェイ)とへジュン(パク・ヘイル)2 ⼈の⼼情を表しているのでしょうか︖》という質問が。町⼭はドイツでの本作のタイトルは『霧の中の⼥』であるとした上で、「劇中では、主⼈公のへジュンが⽬薬をさすシーンや⽬のアップのシーンなどが度々出てきていて、この映画は『⾒る』ということを⼤きなテーマにしているのですが、⼀⽅で互いが愛し合っていても『⾒えない』という⽭盾したことも描いています。それは、歌詞にもある霧の中を進んでいると⽬を開けていても何も⾒えないという恋愛の⼼理状態を表していると思います」と返答。本作は、たくさんの伏線や隠し要素が詰められていることも話題で、繰り返し⾒たくなるとの声も多い。

別れる

続いてトークに移ると、町⼭は「この映画は、ディテールを積み上げて作り上げられている作品で、パク・チャヌク監督は今まで強烈なバイオレンスとセックス描写が多かったのですが、本作ではそこはかなり抑え⽬です。今回、監督は【普通の⼈の映画】を撮りたいと⾔っていて、スウェーデンの刑事⼩説「『刑事マルティン・ベック』シリーズ」で描かれる様な普通で真⾯⽬な刑事が恋に落ちていく映画を撮りたいというのが最初の発想だったそうです」と本作の成り⽴ちについて紹介。さらに監督は、【『愛している』と決して⾔わないラブストーリー】を作りたいとも語り、脚本家のチョン・ソギョンには『逢びき』(1945・デヴィッド・リーン監督)を⾒ておくように伝えたということも明かした。

続けて町⼭は、「『逢びき』では、たまたま出会った男⼥が、ふとしたことをきっかけに恋に落ちてしまう瞬間を描いていますが、セリフは無くても観客に恋に落ちた瞬間がわかる作品です。愛しているとは⾔わずに⼈が恋に落ちていく様⼦を描きたかったのだと思います。本作ではヘジュンが、ソレを取り調べる際に⾼級寿司を頼むシーンがあることについて、『好きな⼈には⾼級な寿司を頼む』という表現もありましたね」と話し、パク・チャヌク監督のギャグのセンスも光るシーンもあると語った。

さらに、アルフレッド・ヒッチコックの『めまい』(1958)との類似点も⾔及されているが、町⼭は「監督⾃⾝は特に意識していなかったようなのですが、チョン・ソギョンさんは『意識した部分はある』と答えていました。」と紹介。同作の登場⼈物・ミッジは、ヒッチコック監督の妻であるアルマ・レヴィルを投影しているとされているが、ヘジュンの妻のキャラクター構築はミッジを参考にしたのだという。

続けて、本作を⾒ていて印象に残るものの⼀つとして『⾊』を挙げ、「ソレの部屋の波の柄の壁紙や、彼⼥の着ている緑⾊のような⻘⾊のようなドレスだったり、とにかく全編通して【緑⾊】が出てきます。それ以外には、最初の死んだ夫のコートや、ソレの洋服だったり、真っ⾚な⾎であったりと緑の補⾊である【⾚⾊】も多⽤されたり、緑⾊のプールに真っ⾚な⾎が描かれていたりと、緑と⾚が常に画⾯に映し出されています」と紹介し、「この【緑】というのは、ソレの壁紙からもわかるように【海の底】を表していて、ソレが不眠症のへジュンを寝かしつける際に、『海の底をイメージして、クラゲになれば喜びも悲しみも感じません』と呟くシーンがありますが、これは彼⼥がそういった存在になりたいということを表しているのでしょう」とソレの⼼理について解説した。

さらに、冒頭の射撃のシーンについては、「よく⾒ると、後輩の銃弾は乱れていますが、へジュンの銃弾は百発百中です。さらに、へジュンはたくさんのポケットのある洋服を着ていて、そこから必要なものを次から次へと出してみせます。彼は、⽤意周到で射撃も上⼿く、整理整頓をきちんとしているすごく優秀な刑事なんです」とへジュンのキャラクターも分析。続けて、「だからへジュンは未解決事件というのが許せない性格で、⾃分の部屋にそういった事件の写真を貼っているのですが、それを⾒たソレは未解決事件に嫉妬をするという⾮常に変な恋愛関係ですよね」とした上で、「この⼆⼈は愛し合っているという確認もしなければ、話し合ったりもしないので、お互いに何を考えているかもわからないんです。でも、そのように“霧の中を進んでいるような時”や“未解決事件”の時が、“愛”であると描いている映画なのだと思います」と本作を解説。イベントは盛況のうちに終了となった。

別れの■映画概要
監督:パク・チャヌク
脚本:チョン・ソギョン、パク・チャヌク
出演:パク・ヘイル、タン・ウェイ、イ・ジョンヒョン、コ・ギョンピョ
提供:ハピネットファントム・スタジオ、WOWOW
配給:ハピネットファントム・スタジオ
原題:헤어질 결심|2022 年|韓国映画|シネマスコープ|上映時間:138 分|映画の区分:G
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