清水宏監督の『按摩と女』は、知る人ぞ知る作品だった。たとえば、作家の小林信彦氏が「ベスト100本」のひとつに挙げているほどだ。清水監督のオリジナル脚本で描かれた恋愛物語は、シリアスでもコメディでもない、実に不思議な味わいである。
なお、2008年に封切られた草彅剛主演『山のあなた　徳市の恋』（石井克人監督）は、この作品のリメイクである。

按摩の徳市(徳大寺伸)と福市(日守新一)との二人が、山間の温泉宿に着く。二人は目が不自由なのだが、カンが良く、客の職業までも当ててしまう。
東京から来たという女性（高峰三枝子）が徳市に按摩を頼む。どうも、いわくありげな女性のようだ。が、徳市はなぜかこの女性に惹かれてしまう。
ある事件が起きて、徳市は女性とともに逃げようとするのだが……。

淡く、ちょっと荒れた白黒画面が、この奇妙な雰囲気をさらに強めていく。
主演の徳大寺伸や日守新一の達者な演技以上に、若き日の高峰三枝子の都会的美しさを堪能してもいいだろう。
戦前の映画界でも、こうした「新しい」作品がけっこう生み出されているのである。