NHKのBS時代劇で放送中の「陽だまりの樹」は漫画家の手塚治虫が自らのルーツとして曽祖父である手塚良庵を軸に描いた青春群像劇ですが、良庵が医師であることから時代劇の中にも当時の医療について触れられています。
「医療ドラマ×時代劇」といってまず思い出されるのがTBSで放送された「仁‐JIN-」でしょう。ナビコンでも過去に特集させていただきましたが、現代の医師が江戸時代にタイムスリップするという設定で江戸時代の医療を描くだけでなく現代医療との対比がより分かりやすい点が秀逸です。折りしも5月5日にCSの「TBSチャンネル」にて「1日で全話見せますSP」として「仁‐JIN-」が登場、更に再放送として16日から23日に掛けて連日2話ずつ放送されます。もう一度見てみたい、実は見逃していたという方はこの機会に是非ご覧下さい。
さて、「陽だまりの樹」にも緒方洪庵や多紀某という人物が登場していることで「仁‐JIN-」と同時代であることがお分かりかと思います。この時代の医療を描く時にはほぼ敵役として出る「多紀××」という人物ですが、これは江戸時代に作られた医学校である「医学館」の創始者一族である事を表します。ですから世襲が一般的であった当時において必然的に医学会の中心的ポジションに多紀姓の人物が就任することになります。

では時代劇に目を向けてみると、「仁‐JIN-」以前にも医療が登場する作品がいくつかあったのをご存知でしょうか。医療を描いた時代劇として私がお勧めしたい作品として、ここでは「華岡青洲の妻」と「花神」をご紹介したいと思います。
まず「華岡青洲の妻」ですが、これは江戸の宝暦年間に生まれた医師・華岡青洲を支えた妻と母を描いた有吉佐和子の小説のドラマ化作品です。華岡青洲という人物は世界で始めて全身麻酔を用いて乳がん手術を成功させたという優れた人物なのですが、この作品のすごいところは華岡の功績を綴ったものではなく、その手助けをするために嫁姑間で繰り広げられた心理戦を中心に描いているという点です。流石、女の情念を描かせたら随一の有吉先生らしい視点です。過去6回もドラマ化されている作品ですが、一番新しいものはNHKの金曜時代劇で2008年に放送されたものです。華岡青洲を谷原章介、妻の加恵を和久井映見、母の於継を田中好子が演じました。当時興味深く見ていましたが、青洲が麻酔を試す被験者として妻と姑が競い合うように名乗り出るところが強く印象に残っています。こうして華岡青洲は当時の医学に偉大な功績を残し、その一派が開いた医学塾「合水堂」は漢方医育成の拠点として江戸時代の医学界の中核を担います。
谷原版の華岡青洲はちょうど今年の2月から4月にかけて不定期で再放送されていました。再放送リクエストの多いドラマでもあるので、出来ればオンデマンドにも登場願いたいところです。

次にこちらもNHK、司馬遼太郎原作で1977年に放送された大河ドラマ「花神（かしん）」です。これは近代軍制の創始者とされる大村益次郎を主人公にした作品ですが、元は村医者で適塾での医学生時代が描かれたり、日本人女性初の産科医でシーボルトの娘である楠本イネが登場することからこちらで紹介することにしました。ここでも適塾が舞台となり、塾生として福沢諭吉が登場します。益次郎は諭吉とそりが合わないようでしたから、もしかすると良庵とも仲が良くなかったのかもしれませんね。ちなみにこちらの作品は一部特選オンデマンド配信されていますので興味を持たれた方は是非ご覧下さい。当時アイドル俳優として人気だった中村雅俊さんが初の時代劇出演ということでも話題になったそうです。イネ役の浅丘ルリ子さんも可愛らしいですよ。
あちこちのドラマに登場する緒方洪庵ですが、生まれは文化7（1810）年、青洲に遅れること50年です。さて、この洪庵先生を主人公に据えたドラマというのは私が知る限りでは「さらば適塾」という緒方拳主演で1981年制作の単発ドラマしか思い当たりません。時代劇好きの祖父と一緒に見た記憶があるのですが、何分幼少期なのでうっすらとしか覚えていません。DVD化されて欲しいと思う作品の一つであります。洪庵が蘭学者として西洋医学を広めるために設立した適塾は奇しくも青洲一派の「合水堂」と程近い場所にあり、塾生同士はライバルとして睨み合いが耐えなかったそうです。「陽だまりの樹」でも描かれていましたが、適塾生がなりふり構わず貧しい身なりでも医学を志すものが集まるのに対し、合水堂は良い家柄で小奇麗な身なりの子息が集う「セレブ学校」のような存在だったようです。「陽だまりの樹」には出てきませんが良庵のこと、きっと合水堂の塾生たちとも何か一悶着あったのではと想像するのも楽しいものです。

BS時代劇「陽だまりの樹」は毎週金曜日よる8時から放送、予告動画はドラマ公式サイトで視聴できます。

陽だまりの樹｜NHK　BS時代劇