吉川英治原作「宮本武蔵」の映画は、稲垣浩、内田吐夢の傑作があるが、いずれも三部作、五部作ととにかく長い。原作が大長編だから、それも仕方ないところか。
ところが、この加藤泰の「宮本武蔵」は一気にすべてを見せてしまおうという意欲的作品である。しかし、けっして駆け足風にならないあたりは名匠、加藤泰の円熟の技なのだろう。
出世を夢見て関ヶ原の戦に出た作州宮本村の武蔵と又八は、けっきょく敗れて山中をさまようことに。又八は助けてくれたお甲、朱実の母子と逃げ、武蔵だけが故郷へと戻る。沢庵和尚に戒められ、千年杉に吊るされた武蔵を助けたのは、又八の許婚のお通だった。
村を出た武蔵は剣で身を立てるべく、武者修行に明け暮れる。
三年後、京都の名門吉岡道場の当主、吉岡清十郎と立ち会う武蔵がいた……。
武蔵を高橋英樹、佐々木小次郎を田宮二郎、さらに又八がフランキー堺、沢庵は笠智衆となかなか豪華な顔ぶれである。
吉川英治原作の場合、普通は武蔵が少しずつ成長していく物語として描かれるのだが、加藤泰はそうした時間的な流れより、群衆劇としての「宮本武蔵」を試みたようだ。そのため、新しい武蔵のドラマとして蘇ってくるのである。
武蔵・高橋英樹、小次郎・田宮二郎、加藤泰が描く『宮本武蔵』。
スタッフ: 製作:三嶋与四治/監督:加藤泰/原作:吉川英治/脚本:野村芳太郎、山下清泉/撮影:丸山恵司/音楽:鏑木創/美術:森田郷平、浦山芳郎/照明:三浦礼/録音:平松時夫/編集:大沢しづ/助監督:三村晴彦キャスト: 宮本武蔵:高橋英樹/佐々木小次郎:田宮二郎/朱実:倍賞美津子/お通:松坂慶子/お光:仁科明子/吉岡伝七郎:佐藤允/吉岡清十郎:細川俊之/細川忠利:浜畑賢吉/お杉:任田順好/お甲:木村俊恵/研屋耕介:汐路章/岩間角兵衛:加藤武/長岡佐渡:加藤嘉
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