追悼 いぶし銀の脇役俳優 大木実さん
そろそろ桜も満開になろうかという3月30日、俳優の大木実が亡くなった。
死因はすい臓ガン、享年八十五。
また、一人、映画の黄金期を生きた人が去っていった。
大木実という名を聞いて、すぐさまいくつかの作品を思い浮かべられる人は、かなりの日本映画「通」である。
もちろん、多くの人は大木実の顔を見知っているはずである。顔と名前も一致する。人気ドラマへのゲスト出演を記憶の中から引っ張り出すことも可能だ。
では、その代表作は何かと問われると、答えに窮するだろう。
新聞などは、『あなた買います』(小林正樹監督 1956)、『張り込み』(野村芳太郎監督 1958)を代表作として挙げていた。
確かに、それらは「大木実」の名を広く知らしめた作品ではある。そして、作品そのものも高い評価を得ている。だから、プロフィールからは落とせない作品なのだろう。
ただ、大木実という俳優の名を後世に残し得るのはこうした「名作」だけではなく、200本ほどもある、プログラムピクチャーの作品ではないだろうか。そうした、慌ただしく作られ、やがて消えゆく運命の作品の中で異彩を放っていたからこそ、大木実という名と、ちょっコワモテの顔とがこれほどに知れ渡っているのだと思えるのだ。
よく見ると、彼の端正な表情から想像できるように、もともとは松竹映画の二枚目として売り出した俳優である。そこから任侠映画などへと向かったという意味では、鶴田浩二とも相通じるところがある。
しかし、その持ち味は大きく異なっていた。大木の場合は、甘さよりも苦さ、渋さに比重がかかっていたのである。京マチ子と共演し、明智小五郎を演じた『黒蜥蜴』(1962)が隠れた代表作なのも、ある意味では暗さや陰を持ち味としているせいかもしれない。
その虚無的な風貌や、ドスのきいた声質がさらに生かされたのが、東映のギャング映画、ヤクザ映画なのである。
マキノ雅弘と高倉健とが組んだ記念碑的作品『日本侠客伝』(1964)にも出演しているし、その後の高倉健、鶴田浩二の任侠作品では重要な役どころを演じている。『傷だらけの人生 古い奴でござんす』(1972)、『昭和残侠伝』シリーズなどだ。
時に主人公を助ける善玉、ある時には主役を窮地に陥れる悪玉と、いろいろな役のあり方を楽しんで演じているようだった。
ただ、親分のような顔つきのわりに笑顔が魅力的であったから、一筋縄ではいかない印象を受けたのだ。そうした奥行きの深さが演技にも現れていた。
他にも菅原文太の『木枯し紋次郎 関わりござんせん』、渡瀬恒彦の『極悪拳法』、若山富三郎の『子連れ狼 三途の川の乳母車』など、主役と対等に渡りあう役どころを多く演じている。
脇にいながら、大きな存在感をもつ俳優がいることでドラマというものは締まるのである。そうした演じ手が消えていくのは、日本映画にとってけっして幸せなことではないだろう。