大泉洋×クドカン「終わりに見た街」夢オチか現実か、ドラマのラストをどう読み解く?

09月22日12時02分 
(2024年09月22日12時07分 更新)
ドラマ
ⓒテレビ朝日

山田太一珠玉の名作「終わりに見た街」が主演・大泉洋×脚本・宮藤官九郎の初タッグで、9月21日(土)に放送された。ドラマのネタバレあらすじとみどころを紹介。TELASAとTverで無料配信、関連動画は番組公式サイトで公開されている。



■ネタバレあらすじ
代表作はないながらもキャリア20年のテレビ脚本家・田宮太一(大泉洋)。二子玉川に一軒家を構え、家庭では家族に疎まれつつも、しっかり者の妻・田宮ひかり(吉田羊)、思春期真っただ中の娘・田宮信子(當真あみ)、反抗期が始まった息子・田宮稔(今泉雄土哉)、そして認知症が出始めた母・田宮清子(三田佳子)と共に、ごくありふれた平穏な日常を暮らしていた。

そんなある日、太一はプロデューサーの寺本真臣(勝地涼)から『終戦80周年記念スペシャルドラマ』の脚本を無茶ぶりされ、断り切れずに渋々引き受ける。データで欲しいといったにも関わらず、寺本から段ボールに入った膨大な資料が送りつけられる。戦争当時を知らない太一は、その資料を片っ端から読みふけていると…いつの間にか寝落ちしてしまう。

明け方、衝撃音で目を覚ますと、自宅の外には森が一面に広がり、見たことのない光景が広がっていた。まるでポツンと一軒家のように、家ごと逆行してしまった田宮家。太一が外に確かめに行ったところ、軍服を着込んだ老人(橋爪功)に身分を問われ、そこが太平洋戦争真っただ中の昭和19年6月の世界であることを確信した太一は、思わず情報局のものだと身分を偽り難を回避する。

自宅に戻り家族にタイムスリップしたことを伝える。そこへ前日に再会していた太一の亡き父の戦友の甥・小島敏夫(堤真一)から電話がかかってくる。敏夫もまた、息子の小島新也(奥智哉)と出かけていたところ、昭和19年にタイムスリップしてしまったという。

敏夫父子と合流した太一はやや安堵したのも束の間、敏夫から家を焼くべきだと言われて拒絶。しかし、「戦時下の人達にとって、この家はUFOのようなもの」だと考えなおし、憲兵に見つかる前に大切なものだけ持って家を出ることに。

リヤカーに荷物を積めて家族を避難させたあと、家を焼却するため戻った敏夫と太一は、憲兵が家を焼き、飼い犬のレオを殺す場面を眼にしてしまう。

これから122回も東京で起こる空襲から逃れるため、手持ちの資料と清子の記憶を頼りに、三鷹に移動した7人は、その夏、家から持ち出した物を物々交換しながらなんとか生き延びる。稔を国民学校に行かせるために、戦時中の常識を教えようとするが、それに疑問を感じた太一は、稔を学校へは行かせないことにする。



10月になり新也が突然姿を消した。憲兵が配給所に入った泥棒の似顔絵をもって尋ねてくる。その似顔絵は新也にそっくりだった。髪を切るのを拒んでいた太一は隠れていたが、何故か一人の兵士がみのがしてくれる。

11月になると食糧不足が深刻になり、このまま三鷹で暮らしていくことを危険に感じた太一たちは、荻窪の空き家に住まいを移し、偽の戸籍で国民登録を済ませる。

これで配給は受けられるようになったが、代わりに敏夫は重機工場で、ひかりは縫製工場で、信子は郵便局で、太一は鉄兜工場で働くこととなった。

ある日、防空壕で空爆を逃れていると、これから起きる3月10日の東京大空襲に思い至る。膨大な被害を自分たちの力で抑えることができるのではないかと考えた太一と敏夫、そしてひかりは、下町に行って“噂”を流すことにする。

わら半紙に書いたビラを配ったり、静子を占い師に仕立てて予言めいたことをさせたりと奮闘するが、今一つ成果は上がらない。日々防空演習や炊き出しに追われていた信子は、働かない太一に怒りを募らせる。「どんな戦争でも、人が人を殺していい理由にはならない」と人の命を救う大切さを太一は唱えるのだが…。

3月9日。今夜に起こる大空襲の警告を叫び、憲兵の手を逃れながら下町でビラくばりを続けていると、憲兵の中に以前見たような顔をみつける太一。その顔は自宅を焼き払った憲兵と、自分を見逃した憲兵によく似ていた。これは何かの陰謀なのではないかと考え始める。

夜、荻窪の自宅に戻ると、そこには行方不明になっていた新也が友人を連れてやってきていた。新也は自分を孤児だと偽って、戦闘機の翼を作る工場で働いているという。すっかり戦中の思想に染まり、今の時代の生き易さを大人たちに説く新也。「みんなおくにのために働いていますよ。日本が負けるなんて思っていないです。皆、本気で日本のために死ぬ気です」と“こんな戦争”と今の時代を非難する大人たちに訴える。

夏になったら、皆この戦争が間違っていたとわかるのだと、太一は諭そうとするが、新也も信子も「勝てばいいんでしょう」「目の前でて起きていることが私たちの現実」なのだと、戦争反対を唱える太一たち大人の行動を非難した。

そこへ予想外の出来事が起こる。荻窪には起きるはずのない空襲警報が鳴り響き、一同はあわてて退避する。焼夷弾が降る中、ひかりや信子を見失い、稔だけを連れて逃げる太一。

すると、またどこかでみたような顔の憲兵が通りかかる。慌てて追いかけるが、まったくの人違いだった。その次の瞬間、大きな衝撃が起こり…。

太一が目を覚ますと、そこはミサイルが打ち込まれ、街が崩壊した現代の二子玉川だった。ネットが復活したスマホに、プロデューサーの寺本の「地下シェルター最高!」とワインを楽しむ薄っぺらいインスタが着信する。太一は昭和19年の幼い少女だった母と戦士した青年の幻を目にしながら息絶えた。


■ドラマの見どころ
通算三度目のドラマ化となる本作。豪華キャストと宮藤官九郎の共演が話題を呼んだ。

ドラマ前半はコメディ要素が強く、豪華キャストの出番もここに集中した。タイムスリップ後すぐの家庭内の会話も、「ポツンと一軒家」、「大事なものはスマホとアップルウォッチとニューバランス(どれもアメリカ製)」、「はま寿司のカリカリポテトが食べたい」と令和と昭和のギャップで笑わせてくれた。続く、物々交換のシーンでも令和のアイテムで笑いを誘うが、それ以降はどっぷり戦中の昭和の生活が続くことに。

戦中の東京では、非力な脚本家の主人公は必要とされず、“お国のため”“今生きている場所”で懸命に生きる子供たちには、「戦争の間違い」をいくら説いても受け入れてもらえない。小学生の稔まで「自分も国のために戦いたい。やられっぱなしでいいわけがない」と言い出し、大人たちは困惑してしまう。この子供たちの思想の変化は、なによりも怖ろしい。

子供たちが訴えるように、昭和の今を生きなければならないなら、自分たちの価値観もそれに合わせて行かなければ生きにくい。戦中思想に馴染み「多様性なんてクソくらえ」と言い切った新也の気持ちもわからなくもないのだが…。

ドラマの最後は原作同様、太一は現代に戻れるものの、そこはどこかの国にミサイル攻撃された崩壊した東京だった。太一のそばに家族の姿はなく、幼い頃の母の姿が現れ、負傷していた彼も息絶える。

何度も同じ人物が現れるというバグ。もしかしたら、すべては意識がもうろうとしていた太一がみた夢…、もしくは、脚本家である太一が書こうとしていた「反戦ドラマ」だったのかもしれない。そんな風にも受け取れる終わり方だった。

テレビ朝日開局65周年記念ドラマプレミアム「終りに見た街」は9月21日(土)21時放送スタート。/原作:山田太一『終わりに見た街』(中央公論社)/出演:大泉洋、吉田羊、奥智哉、當真あみ、今泉雄土哉、勝地涼、三田佳子、堤真一、神木隆之介、田辺誠一、塚本高史、西田敏行、橋爪功 ほか。番組公式X(Twitter)アカウントは「@ex5dpremiu66555」。番組公式Instagramアカウントは「@ex5dpremiu66555」。PR動画は番組公式サイトにて公開中。

ドラマプレミアム「終りに見た街」番組公式サイト

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