名もない川が、名もない海にそそぐ…名もない小さな港町で、いま頼りなげに母と子の二つの影が青白く揺らめいて交錯する。家を捨て流浪し、ようやくこの港町に安らぎを見つけた19歳の少年・深。その少年を追ってきたこの港町に不釣合いなほどに美しい母・涼子。この二人は東京の家で許されぬ罪を犯し、相前後して家を出た。母と子は、愛を絶とうとしながら、なお激しく身を寄せ合う。その二人がやがて出会う奇妙な過去を持つ中年男、そしてもう一人、少年に激しく愛を迫る港町の少女。何も起こりそうにない、風すらも吹かない港町が、いつしか闇の中でざわめきはじめる。母子相姦というタブーのテーマに大胆直裁に挑んだ女流作家・北泉優子の同名原作を得て、さらに深くさらに鋭く母子相姦の主題を突き詰めるこの衝撃の話題作。その善悪、そのモラルの枠を超えて、ひとつの鮮烈な愛とその内奥を切り拓いてみせる。
監督 降旗康男(1985年 101分)
魔の刻
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