NHK「ガラパゴス」後編 満島真之介“命と引き換え”の告発!織田裕二の“約5分間の証言”に涙が止まらない…

2023年02月14日09時00分ドラマ
©NHK

国際標準から孤立した(ガラパゴス化した)日本経済の深部をえぐり、派遣労働者の魂の叫びを描く傑作サスペンス「ガラパゴス」後編が、NHKBSプレミアムにて2月13日(月)放送された。ネタバレあらすじと見どころを紹介、番組サイトで予告動画が公開中、2月18日(土)午後3時30分から再放送する。

●【前編】未視聴の方は⇒【前編】深掘り、ネタバレあらすじ

「ガラパゴス」は相場英雄の同名小説を実写化した作品。現代の生き地獄、派遣労働者の現実を暴露する危険きわまりない長編ミステリー。「踊る大捜査線シリーズ」の青島刑事を熱く演じた織田裕二が窓際刑事役で、34年ぶりのNHKドラマ主演を務めた。

原作も素晴らしいが、脚本(戸田山雅司)と演出(若松節朗)によるドラマも秀逸だった。後編は前編で抑え気味だった織田裕二の演技が熱かった。伊藤英明との取調室での鬼気迫る演技対決もみごたえたっぷりで、裁判での約5分間の心の叫びに泣かされた。また出演シーンこそ少なかったが、自己犠牲の精神で仲間に愛を尽くす仲野定文になりきった満島真之介の演技も絶品。ドラマ視聴後も彼の柔らかい方言と宮古島民謡「ばんがむり」がいつまでも心に残った。ちなみに「ばん」は私、「むり」が子守りで、私が子守してあげるよ、という意味になるそうだ。

また、前・後編を通して桜庭ななみ、髙嶋政宏、泉里香、上地雄輔、鶴見辰吾、野間口徹、金井勇太、東幹久、篠原ゆき子、あめくみちこ、津嘉山正種、戸田菜穂、坪倉由幸(我が家)、ゴリ、肥後克広(ダチョウ倶楽部)⁡ら個性豊かなキャストたちの演技も素晴らしかった。

■後編「働く。生きる。誰もが幸せになっていいはずだ。」ネタバレあらすじ

生前の仲野の足跡を辿る
刑事・田川信一(織田裕二)は鑑識課の木幡(桜庭ななみ)とともに、仲野定文(満島真之介)の生前の足跡をたどるために、彼が派遣労働者として働いていた「ホープネス・ホールディング」傘下の各地の勤務先を訪ね歩く。だが行く先々で「古い記録はない」「人事データ紛失」など捜査の妨害を受ける。それでも劣悪な労働環境の中でも、いつも自分より人のことを優先していた仲野に救われたという元同僚の話も訊けた。他方で派遣労働者同士を総合監視せるというホープネスの独自の酷い慣習があったことや、仲野が「ガラパゴスの最前線」のアカウント名で14年以上前から派遣労働者の現状をネットに書き込んでいたことも分かった。

鳥居へ膨らむ疑惑
捜査の中で、捜査一課特殊犯捜査係警部補の鳥居(伊藤英明)がホープネスと緊密な関係にあるとを知った田川は、各地で捜査の妨害をしていたのが彼だと確信する。鳥居は労災や医療事故を専門にしていたが、2022年8月24日にお台場で起きた交通事故事案を専門外の彼が担当していた。自動車3台が絡む事故でヒラガのハイブリットカーXSLの運転手が死亡。田川と木幡は遺族に会って、その車の車体番号がK3KG57-780816と知る。仲野が遺したメモの番号だ。仲野殺害事件に警察関係者の関与があると考えていた田川は、鳥居への疑いを強くする。

田川の仮説
仲野が亡くなる前に勤めていたのはヒラガの関東工場。そこには清村(しむら、坪倉由幸)もいた。またモーリス電機の工場で一緒だった長内保(上地雄輔)が、仲野の死亡前日に沖縄料理店に同行したメガネの男と判明。不思議なことに仲野の死亡後、長内は岩手県北上のヒラガ系列の部品会社の社員に、清村はホープネス本社の社員として採用されていた。そのことから田川は「仲野がヒラガや関連企業にとって不都合な何かを告発しようとする⇒清村がそれを派遣元のホープネスに密告⇒長内が仲野を呼び出して殺害⇒見返りに2人は社員に採用」と仮説を立てた。

「ガラパゴスの最前線」の書き込み
監察では鳥居を服務規程と収賄で調査していた。先に監察下に置かれると田川は手が出せなくなる。そこで監察官に会って鳥居に殺人教唆または共同正犯の容疑があることを話し、手を組むことに。監察官が鳥居を連行しようとしたとき、鳥居がメモリーカードを隠し持つのを田川が見逃さなかった。それは仲野がヒラガの不正をネットに書き込んだデータ。5年前にネット上から削除したはずだが、鳥居がホープネス社長秘書の高見沢(泉里香)に命じて記録させておいたのだ。2人は愛人関係にあり、これをネタにホープネス森社長(髙嶋政宏)とヒラガ松崎社長(鶴見辰吾)を脅して一儲けを企んでいたのだった。

2017年6月、亡くなる2か月前。仲野はヒラガ関東工場の組み立て作業中に会社ぐるみの不正に気付いた。主力商品だったハイブリット車のコストを抑えるために、国産ではない安い鋼板を使い、車体強度のはるかに低いXSLを製造していた。仲野は自動車掲示板に『関東工場で生産されたクルマがヤバい!車体番号はK3KG57-780816を中心に計50台』と書き込んだ。

ただ正社員になりたかった
田川たちは長内を任意同行するが、長内は仲野が会社の不正をネタにゆすろうとし、悪い連中と知り合って殺されたとでたらめを証言。これに義憤した田川は「仲野さんが何より防ぎたかったのは自分たちが作った車が、顧客の命を奪うこと。なのにヒラガはそんな危険な車を世に出した!」と怒鳴り、長内は全てを自供した。5年前の30日、高見沢から指示を受けた長内は、清村から毒薬を受け取って仲野と沖縄料理店へ。その後、団地の空き部屋105号室でコンビニで買った安酒で仲野を酔わせて、清村と殺害に至った。毒を盛られたと気づいた瞬間、仲野はこの不正を世に伝えるべきとノートを破いて『新城 も/780816』のメモを残した。自らの命を賭した遺言だ。
長内の見返りは正社員という身分だけ。当時長内は貧しく病気がちの娘のためにもどうしても正社員になりたかったのだ。

鳥居の罪と過去
鳥居を聴取する田川は、事件の裏に警察関係者がいると確信した理由を説明する。練炭自殺を装って青酸化合物を使うと検視で発覚する。それを避けるには現場の所轄や近隣の署員たちが総出で駆り出されるような大事件が起きるのを待って犯行を行うしかない。2017年8月30日西新井無差別通り魔殺傷事件が起きた。このタイミングで仲野を殺害し、練炭自殺に偽装すれば殺人を隠蔽することができる。鳥居ならこれをホープネスに伝え、実行犯の長内に指示を出し、青酸化合物中毒死特有の証拠を消すためのペンキのことも教えられる。また捜査の手が及んだ長内に、任意の聴取を切り抜けるための策を授けることも。「保身のためのメモリが仇になったな。清村と高見沢にも逮捕状が下りた」と伝えても鳥居は自白しない。

田川は鳥居の父親のことも調べていた。彼の父親は地方の信用組合から勤勉さを買われて取引先の自動車会社に経理部長として引き抜かれた。社長から裏金作りを命じられ手を貸したが、税務調査で不正が発覚。守ってくれるはずの会社や社長に裏切られ、すべての罪を着せられた父親は鉄道に飛び込み自殺。鳥居は会社から切られる側にならないと決め、警察官になって成り上がろうとした。父親の死に言及され「分かったような口をきくな。お前に何が分かる!」と激昂する鳥居。「どうあがこうが、結局はお前も切り捨てられる」の田川の挑発に、「俺があいつらを利用してやる。オヤジみたいに惨めなことには絶対ならない。そのためにはなんだってすると決めた」と森社長と松崎社長の関与を認めてしまった。田川は去り際に、仲野も父親も自らの仕事に誇りを持っていたはずと告げた。

上からの圧力で封印された真相
これで一気にホープネスとヒラガ自動車に捜査の手が伸びる…と思ったが、実行犯の長内と清村、指示役の高見沢逮捕で捜査打ち切り。しかも動機は元派遣社員同士の金銭トラブルという信じられないもの。

うわさでは警視庁上層部から逮捕は高見沢までで、ホープスの森社長やヒラガの松崎社長には絶対触れるなという通達があったという。その背景には与党大物代議士と有力警視庁OBとの仲立ちでヒラガとホープネスの間で強引な手打ちがあったと推測された。その結果、仲野が告発しようとした不正は一切報じられることなく事件は幕切れとなってしまった。

田川、心の叫び
裁判が行われ、証人席に立った田川は「仲野殺害事件」再捜査の経緯を話し、起訴状の動機は誤りで「内部告発」の口封じが事件の真相だと明かした。そして仲野の優しい人柄や最期の「貧乏の鎖は僕で最後にして」という言葉も伝えた。「私はこの事件に関わるまで派遣労働の現場のことを全く知りませんでした。見えなかったんではなく、あえて見ないようにしていたのかもしれません。差別や貧困はこの国からなくなっていない。その事実から目を逸らさずに、たとえどんな小さな一歩から変えていくことが、仲野さんの死を無駄にしないためにできる唯一のことだと私は思っています」田川は証言を終えた。

田川とともに仲野の墓参りをした木幡は、「人って幸せになれたらなって思って仕事をしているんだと思っていました。…なのにその仕事が差別を生んだり誰かを傷つけたり、人の人生を狂わせたりするなんて、納得できません」と悔しがった。「普通に仕事して、普通に飯が食えて、普通に家族と過ごす。そんな当たり前が難しくなった世の中なんてどこか狂ってないか」田川もやりきれない思いを言葉にした。

後編の再放送は2月18日(土)午後3時30分から。予告動画は番組公式サイトで公開中だ。

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