ジョナサン・グレイザー監督、10年越しの力作『関心領域』を自らが解説する特別映像解禁

05月31日17時00分映画

『関心領域』はイギリスの作家マーティン・エイミスの小説を原案に、ジョナサン・グレイザー監督が10年もの歳月をかけて映画化した作品。製作は、近年の賞レースを席巻している映画スタジオ・A24、制作者自らが解説してくれる特別映像を解禁した。



製作はA24が担当し、第76回カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞して以降、多くの映画賞を受賞。映画では、アウシュビッツ強制収容所の隣に住む所長ルドルフ・ヘスとその家族の暮らしが描かれる。彼らの生活が映される中、音や気配で収容所の恐怖が伝わる作品である。

ジョナサン・グレイザー監督は本作について「なぜ我々は学んでこなかったのか、なぜ同じ過ちを繰り返すのか。80年前に起きた出来事を描いていますが、現代と全く関係のない話を見せるつもりは全くありません。」「今もアウシュビッツ収容所での出来事と同じようなことが繰り返されています。本作は決して過去の出来事ではなく、現在のことを描いているのです。」と語っており、現代社会を投影していることが示される。

Xでは本作のテーマを受け取った感想が多く投稿され、「今を生きるわたし達に問いかける、過去の話ではなく現在の話」「現在の紛争やジェノサイドと地続きな中、自身の「関心」について揺さぶりをかけられた。」「我々も日々こうやって過ごしてるのでは?と何とも言えない身に積まされる気持ちになった。」「この世界に生きる現代人が今見るべき映画」といった声が相次ぎ、唯一無二の映画体験が盛り上がりを見せているが、一方で劇中に度々登場する不思議なイメージが一体何なのか知りたいと思っている人も多いはず。そこで、映画を観た人もまだ観ていない人も楽しめる、制作者自らが解説してくれる特別映像を解禁。

映像の前半で語られるのは撮影場所について。アウシュビッツ強制収容所所長ルドルフ・ヘス一家の物語を描くため、実際にアウシュビッツの隣で撮影を行ったというチーム。ジョナサン・グレイザー監督は「可能な限り真実に近づくことが大切だったからアウシュビッツの隣で撮影した」とリアルを追求したと語る。

アカデミー賞音響賞を獲得したサウンド・デザイナーのジョニー・バーンは、「暴力は映像では描写せずに、すべて音で表現するようにした。壁の向こう側では虐殺が行われてる。そんな空間に響き渡る音を忠実に再現するために、徹底的に調べて音作りをした」と制作の裏側を振り返る。

そして話は、劇中にサーモグラフィの映像として登場する、林檎を土に埋めていた謎の少女に及ぶ。この少女には実在のモデルがおり、アレクサンドラ・ビストロン・コロジエイジチェックという人物。アレクサンドラは監督がポーランドでリサーチを重ねている時に出会った当時90歳の女性。12歳の時に彼女はポーランドのレジスタンスの一員として、度々収容者にこっそりと食事を与えていたという。その話を聞き、監督はアレクサンドラの物語を書くことを決意。(照明を使わないと決めていたため、夜でも人の形を撮影できるサーモカメラで撮影され、彼女を単なる人間ではなくエネルギーとして描いた、ということを別のインタビューで話している)アレクサンドラは映画の完成前に亡くなったが、アカデミー賞のスピーチでジョナサン・グレイザー監督は彼女に感謝の言葉を贈った。家、ピアノ、ワンピースまで、すべてアレクサンドラの私物を借りて撮影したシーンで奏でる音楽は、実際にアウシュビッツの収容者であったヨセフ・ウルフが1943年に書いた「sunbeam」という楽曲。本編では黄色い日本語字幕で歌詞がでるのでその内容を注意深く読んでほしい。

映像の最後に監督は「私たちに似た人間でも、簡単に残虐な行為に及ぶ恐ろしさを伝えている。そんな中アレクサンドラは人間にも善意が残ってると示してくれた。そんな彼女の存在に救われたような気がした」と物語の唯一の希望の光として描いたアレクサンドラの姿に、平和への願いを込めたことを明かしている。

特別映像YouTube

監督・脚本:ジョナサン・グレイザー
原作:マーティン・エイミス「関心領域」(早川書房刊)
撮影監督:ウカシュ・ジャル 音楽:ミカ・レヴィ
出演:クリスティアン・フリーデル、ザンドラ・ヒュラー
配給:ハピネットファントム・スタジオ
原題:The Zone of Interest|2023 年|アメリカ・イギリス・ポーランド映画|
公式 HP:https://happinet-phantom.com/thezoneofinterest/
公式 X:@ZOI_movie

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