【蒼穹の昴】浅田次郎の愛する清朝をもっと知りたい！[コラム]

現在、ドラマ「蒼穹の昴」の公式サイトでは原作者の浅田次郎さんと元NHKの松平定知さんによる対談動画が公開されています。この対談はドラマのロケ地である浙江省東陽市の横店撮影所に建てられた紫禁城のセット内で行われています。実際の紫禁城は故宮博物院として使われているので長期に渡るロケなどは難しかったのですが、この撮影所のお陰で可能になったのですね。もちろんこの「蒼穹の昴」の撮影の為だけではなく、今後も沢山出来るであろう紫禁城を舞台にした数多くのドラマや映画で活躍する事になるでしょう。日本でいうと東映太秦映画村のようなものでしょうが、建物の元の規模が大きいだけにかなりの迫力がありますね。
「蒼穹の昴」は浅田さんにとってこれを書くために作家になったと言わしめるほど思い入れの深い作品のようで、それがこのような壮大なセットでドラマ化されるのですから感慨もひとしおでしょう。

[乾隆帝ってどんな人？]
日本でよく時代劇に取り上げられる人物には信長や秀吉、家康、坂本龍馬に新撰組…などありますが、中国でも同じようにドラマ化されやすい歴史人物というのがあります。その一人が「蒼穹の昴」でも重要な存在である「乾隆帝」なのです。
乾隆帝という人は何と言いましょうか、清朝におけるスーパー皇帝でありまして、清朝全てを通じて最高峰の皇帝と見なされている人物です。乾隆帝の時代に清朝の勢力図が最大になったという事を皮切りに、「四庫全書」という優れた書の編纂、内政の充実によって度々減税を行う事で民の信奉も篤い皇帝でした。個人も漢詩や芸術に精通した文人皇帝でありかつ武芸にも優れ、後の皇帝の規範とされる人物だっただけにその威光は代々伝えられてきたのです。
清朝を語る上で「三世の春」という言葉がありますが、これは康熙・雍正・乾隆という3代にわたる賢帝の出現で清朝が絶頂期を迎える黄金の時代を表しています。その大トリとも言える乾隆帝は現代の世でも人々に愛され、その逸話は数多くドラマ化されています。「蒼穹の昴」の第2話で「訓政」の話が出たかと思います。乾隆帝は在位60年を迎えるに当たって祖父である康熙帝の治めた61年を越えてはならないとして名目上引退をしたものの、実際は太上皇として実権を持ち続けたというお話でしたね。昭和を知る人にとっては在位60年というものがいかに長いかというのを実感出来るのではないでしょうか。
それだけ長い間世に君臨していたのですから、逸話もたくさん生まれてきます。ドラマ化されるに当たっても若き乾隆帝、年老いた乾隆帝、武人としての乾隆帝、文人としての乾隆帝などなど、様々な切り口で描く事の出来る魅力ある人物なのです。数ある乾隆帝のドラマの中でも人気のあるあらすじが、乾隆帝が平民を装って世の中の様子を見て回るという内容です。日本でも「暴れん坊将軍」や「水戸黄門」が人気であるように、中国でも人々に愛されている定番の物語です。日本のものは架空の設定ですが、乾隆帝は実際に変装して庶民の姿を見て回ったという記録が残されています。
物語に直接関係は無い乾隆帝ですが、どんな人であったかを知る事で何故西太后の世まで崇め奉られているかという事が分かってよりドラマが楽しめるかと思います。


[「蒼穹の昴」を訪ねる旅のお供に一冊]
このドラマを見たことから中国旅行をしたいと思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。そんな方にお勧めなのが「浅田次郎とめぐる中国の旅」という一冊です。はい、タイトルそのまんまです。これには「蒼穹の昴」にまつわる浅田さんの思いが込められた一冊となっています。この作品以前の浅田さんは極道お笑いシリーズなどをお書きになっていたので、いきなり長編中国時代劇を書いた事で当時は驚く人も多かったようです。この本の冒頭部分にあるエッセイで、浅田さんが中国清朝に傾倒するきっかけとなった書物として前回のコラムでご紹介した宮崎先生の本の前身である「科挙史」を挙げていらっしゃいます。清朝に対する浅田さんの思いが如何ほどのものか切々と綴られており、読むに連れてこちらまで清朝の魅力の虜になってしまいそうです。
この本で浅田さんが旅しているのは紫禁城こと故宮博物院、北京市、瀋陽、万里の長城の八達嶺や山海関などです。素晴らしいのは「浅田次郎と紫禁城を歩く」と題された観光案内です。浅田さんお勧めの紫禁城観光コースが示され、それに沿って浅田さんによる解説文が記されています。この本を手にしながら故宮を回るのは、「蒼穹の昴」ファンにとってはかなりの贅沢ではないでしょうか。浅田さんの中国史に対する造詣に裏打ちされたガイド文は、一般の観光ガイドでは味わえない奥深さがあります。私も過去に幾度か故宮博物院を訪れましたが、いつかまたこの本を片手に訪れたいと切に思います。

冒頭で紹介の浅田さんと松平さんの対談動画は、番組公式サイトのスペシャル企画ページで視聴できます。


｢蒼穹の昴」への招待　対談　浅田次郎×松平定知


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