スターと大部屋俳優の男、そして落ち目の女優の奇妙な人間関係。大ヒット人情喜劇『蒲田行進曲』。

評判の舞台を映画化すると、たいてい上手くいかない…　これは原作ものの映画と同じで、イメージが固定してしまっているせいだろう。実際はそれほどの失敗作ではないことが多いのだが、どうしても比較してしまうため、後から作られたほうに点数が辛くなるのだ。
この『蒲田行進曲』は、舞台を知っていても十分に映画が楽しめたから、むしろ希有な例と言える。

京都撮影所では、ちょうど「新撰組」の撮影がたけなわであった。土方歳三に扮して登場した銀ちゃんこと倉岡銀四郎（風間杜夫）。大部屋俳優のヤス（平田満）はそんな銀ちゃんに憧れている。二人の関係は、はたから見るとかなり理不尽でもあるが、本人たちにそんな意識はない。
ある日、銀ちゃんがヤスに、自分の子を身ごもっている女優小夏（松坂慶子）を押しつけたことから、ヤスの生活は一変し、また二人の関係も微妙に変化していく……。

喜劇ではあるのだが、妙に悲しいのは、つかこうへい独特の「人は自分の役柄を演じるものである」という人間観が濃く出ているからだろ。
最初の舞台での銀ちゃんとヤスは、加藤健一と柄本明で、再演から風間・平田コンビになった。映画によって風間・平田コンビのほうが広く知られるようになり、以降、二人ともテレビや映画に頻繁に登場するようになる。