イ・ビョンフン監督「イ・サン」考:「チャングムの誓い」と違うドラマの魅力は?予告動画
イ・ビョンフン監督の代表作といえばやはり、「宮廷女官チャングムの誓い」と「イ・サン」を上げる韓ドラ史劇ファンが多いのでは?どちらも実在の人物をドラマチックに描いた作品!だが、イ監督の取り組みとしてはこの2作は大いに異なる!今回は、その違いと魅力について改めて考えたい!公式サイトなどで予告動画が公開されている。
イ監督の代表作にはもうひとつ忘れられない作品がある。「ホジュン~宮廷医官への道~」(2000)だ。この作品は63.7%というお化け視聴率をたたき出しており、1990年以降の韓国ドラマにおいて史劇ジャンル1位、全ジャンルにおいても堂々の第4位となっている。(参照:韓流ドラマ視聴率TOP30(1990年~2010年)
「チャングムの誓い」(2004)も57.80%の高視聴率を記録している。この両大ヒットドラマはどちらも庶民の英雄談でどちらも医療という職業(チャングム前半は食)での成功記だ。
一方、「イ・サン」は朝鮮王朝第22代王・正祖の物語。(朝鮮王朝系図) 但し、イ監督は、これを既存の時代劇のような王の権力物語としてではなく、人間“正祖”の物語としている。だからこそ、ドラマのタイトルを正祖の名前である「イ・サン」とし、彼の人格形成の上で外せない11歳の時に起きた父・ソン(後の思悼世子)が処刑された「米櫃事件(米びつ事件)」からスタートさせている。そこにソンヨンやテスと出会わせ、友情をはぐくませたことで、世孫サンを人間サンとして視聴者に強く印象つけた。
「チャングムの誓い」は歴史書「朝鮮王朝実録」に、“長今(チャングム)”や“大長今(テジャングム)”と10回ほど名前が登場するが、具体的に王の主治医だと分かる明確な記載は「私の病は女医が知っている」の一文しかない。これに対して、正祖は同書以外にも多くの文献記録が残っている。
「チャングム」が歴史背景を11代王・中宗~13代王・明宗あたりの背景を借りて、実際に起きた事件にうまくチャングムを添わせたほとんどがフィクションで描かれているのに対して、「イ・サン」では、史実が多く描かれている。だから、物語を一から生み出す苦労はない。だが、日本よりはるかに厳しいドラマファンから史実との相違があれば抗議が殺到したと、イ監督はインタビューなどで語っている。
それでも歴史上の事件を多くドラマに盛り込んでいる「イ・サン」は、朝鮮王朝後期にルネッサンス期を築いた21代王・英祖、22代王・正祖を背景にしたドラマや映画のロールモデルになっているといってもいいほど。「秘密の扉」(2014)で英祖がサンに“友だち”関する話をしているが、これは明らかに「イ・サン」のソンヨン、テスを意識したセリフ。(ドラマの年表:朝鮮王朝)
だが、気をつけないといけないのは、「イ・サン」には史実と異なるエピソードや仮想の人物が登場していること。イ監督とキム・イヨン作家の凄いところは、それが実際に起きてもおかしくない程度で、そこに実在した人物をモデルにした仮想の人物を抜群のタイミングで登場させているところ。
歴史ファンの方は、劇中描かれたエピソードが実際にあったか、どうかをご自身で調べてみるのもまた、ドラマ「イ・サン」の新たな楽しみ方だ。
※参考になる書:『朝鮮王朝実録』、『韓国の歴史』、『チャングム、イ・サンの監督が語る 韓流時代劇の魅力』、『韓国ドラマ・ガイド イ・サン』ほか。
【「イ・サン」を2倍楽しむ】では、各話のあらすじと見どころと一緒に、時代背景やキャストと実在人物、年表、知っておくとドラマをもっと楽しめる豆知識をまとめてご紹介しているので参考にどうぞ。
◇YouTube「イ・サン」予告動画
【作品詳細】【「イ・サン」を2倍楽しむ】
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