目を背けてはいけない現実-『火垂るの墓』終戦80年、終戦の日に地上波放送

8月15日の終戦の日、金曜ロードショーではスタジオジブリの不朽の名作『火垂るの墓』が放送される。番組サイトで予告動画が公開中だ。
地上波での放送は2018年以来、約7年ぶり。原作は野坂昭如の直木賞受賞短編であり、高畑勲監督が戦争の理不尽さと命の尊さを、圧倒的なリアリティで描き出した作品である。
本作は、「昭和20年9月21日夜、僕は死んだ」主人公・清太(声:辰巳努)が駅構内で事切れるところから始まる。
1945年夏の神戸を舞台に、空襲で母を亡くし、戦地の父とも連絡が途絶えた14歳の清太と4歳の妹・節子は、遠縁の叔母の家に身を寄せる。しかし次第に疎まれ、二人は防空壕での自活を選ぶ。限られた食糧と病に蝕まれながらも、互いを支え合う兄妹の姿は、蛍の光のように儚く美しい。物語はやがて避けられない悲劇へと向かうが、その過程にこそ、命の輝きと戦争の残酷さが刻まれている。
作中、幼い節子が栄養失調でどんどん弱っていき、虫の息で「兄ちゃん、どうぞ。おから炊いたで…」と呟いて泥だんごを兄に渡し息を引き取る。葛籠の中に節子と、節子が大事にしていた人形を入れ火葬する兄・清太。あの当時の日本では、このような光景があちこちであったのだろう…。
節子が人形のほかにもう一つ、大切にしているものが登場する。最近はあまり店頭で見掛けなくなった「サクマドロップス」の缶。甘い物欲しさに節子は、おはじきを缶の中に入れドロップ代わりに舐めるのだが、このシーンも涙なくして見ることができない(現在は缶ではなく袋入りで発売されている)。
戦地へ赴く兵隊たちの過酷さ、悲惨さは『永遠の0』など数多くの作品で描かれているが、戦争孤児を描いた作品はあまり多くない。『火垂るの墓』は決して目を背けてはいけない戦争の悲惨さを、清太と節子の目を通して描かれている作品である。
清太の声を演じるのは辰巳努、節子役は白石綾乃。母・雪子を志乃原良子、叔母を山口朱美が担当し、周囲の大人たちが物語の悲哀を際立たせる。音楽は間宮芳生が担当し、重厚で切ない旋律が物語を支えている。神戸の町並みやB29による空襲の描写は細部まで緻密で、戦中の空気感を鮮烈に蘇らせる。
終戦80年という節目にあたるこの日、『火垂るの墓』は単なるアニメーションを超え、戦争の記憶を後世に伝える映像遺産として放送される。幼い兄妹の必死の生と死を通じて、平和の尊さと命の脆さを静かに、しかし力強く訴えかける。この日、この作品を必ず観届けてほしい。
◇日本テレビ「金曜ロードSHOW!」番組公式サイト