ミステリー、社会派映画、なおかつ恋愛ドラマの傑作『飢餓海峡』。

最近の日本映画は佳作が多いものの、骨太の傑作にはなかなか出会わない。夏の暑い夜、映像から物語までをたっぷりと堪能したいなら、おススメは水上勉原作の『飢餓海峡』だ。
名匠、内田吐夢監督の代表作の一つであり、三國連太郎や左幸子、伴淳三郎ら出演者それぞれの代表作にもなっている。

舞台は昭和22年の北海道から始まる。ある町で強盗殺人があり、犯人たちは逃亡。本州へと渡るには青函連絡船を使っていた時代である。時は、まさに台風シーズン。強風によって連絡船が沈没し、乗客530名が死亡する。しかし、死体は532体あった。
函館警察の弓坂（伴淳三郎）は先の強盗殺人の犯人ではないかと推理する。捜査の過程で犬飼太吉（三國連太郎）という人物が浮上するのだが、青森から先の消息はまったく掴めなかった。さらに10年の月日が流れる……。

貧窮の暮らしから這い上がろうとする男と、そんな男を慕いつづける女。愛情と憎悪とが交錯し、そこでさらなる犯罪が生まれていく。人間の汚さから哀しさ、寂しさ、愛しさが噴き出してくるのだ。
三國、伴淳も好演だが、一夜の出会いでしかなかった犬飼を追いつづける左幸子が、実にいい。
ミステリーでもあり、社会派映画でもあり、なおかつ恋愛ドラマの傑作でもある。

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