韓ドラで話題の“産後療養院”って?韓国在住スタッフが体験談と一緒に韓国の産後事情、日韓の差を徹底紹介【韓国コラム】
韓国独自の産後ケアセンター「産後療養院」を舞台に、出産と育児の悲喜こもごもをリアルに描く史上初の母子コメディ「パンドラの世界~産後ケアセンター~」が日本でも人気だ。このドラマを見て、韓国ならではの「産後療養院」って実際どんな施設だろうと興味を持った方も多いのでは?今回は、昨年韓国で出産した筆者による産後療養院の体験談などをご紹介したい!
■産後療養院とは?
韓国には産婦が出産後、体調管理のために利用する韓国独自の産後ケアセンター「産後療養院」がある。韓国語でチョリウォン(調理院)と呼ばれる。韓国人ママ達の間では「天国」と言われており、順に説明するが「こんな体験二度とできないのではないか?」と思う程、とにかく至れり尽くせりのサービス内容。
個人的に感じたこととしては、韓国では日本以上に「産後1ヶ月の過ごし方(=絶対安静)」が重要視されているようで、そのための周囲のサポートがかなり手厚い。稀に必要性を感じないと退院後すぐに自宅に帰宅する人もいるが(そのお金でオムツ代やミルク代などに使う方が有益だと考える人など)、上の子供の世話があるので家を長期間空けることができないなどの事情がある場合を除き、多くの産婦が産後の回復のため、そして自身へのご褒美もかねて産後療養院を利用するのだ。
■期間は?
まずは出産した病院にて、自然分娩であれば2泊3日程度、帝王切開は5泊6日ほどの入院期間があるのは日本でも同様だろう。そして退院後、多くの女性はそのまま産後療養院に入る。滞在期間は1週間、2週間から選択するのが主流だ。産後療養院を利用せず自宅に帰る女性の多くは、自分の母親がサポートしてくれるなど特段必要性を感じない場合、また上の子の世話があるから、といった理由が多いようだ。
因みに韓国では、産後療養院とは別に「産後トウミ」という、ベビーシッターのような制度が存在し、産後数ヶ月以内に限り市や国からの支援金で格安で利用できる。そのため産後療養院に行かずとも、自宅で日中この制度を利用する人もいる。基本的には朝から夕方まで赤ちゃんのお世話は勿論、食事の用意や家事までプロがかわりにやってくれるのだ。新生児期間という慣れない育児で大変な中、韓国では退院後は産後療養院2週間+産後トウミ2週間とフルで利用する人も多く、筆者も慣れない外国での初めての育児ということもあり、両方利用した。
■産後療養院の施設、基本サービス内容は?
入院時は病院によっては相部屋の場合もあるが、産後療養院では基本的に個室でプライバシーが確保されており心置きなくのんびりできる。部屋の広さや設備は費用にも関係してくるが、一般的にはホテルの1〜2人用の広さと思って良い。テレビや冷蔵庫、トイレシャワー付。またテレビは勿論インターネット接続可能で、筆者は暇さえあればNetflixにログインし、大画面で優雅に韓国ドラマを楽しんだ。パジャマも自由に貸し出され、自身のタオルや下着の洗濯サービスもあり。また共用部分ではコーヒーなどセルフでいつでも飲めたり、マッサージ機器も自由に使い放題。
そして一番大事な新生児のケアは勿論かなり手厚い。母子同室かは施設の方針によって異なるが、筆者の場合は日中は授乳のタイミングで自室に赤ちゃんを連れてきて自由に過ごし、また好きなタイミングで再び預けることができる。勿論休みたい時はパスして預けたまま一人で過ごすことも可能。夜は万一の場合に備えて新生児室で看護師が世話してくれるため、朝までしっかりと眠ることができる。またに場所よっては新生児室の様子、我が子の様子をスマホで確認できるサービスもあり、部屋で一人過ごす場合も安心だ。
■その他サービスは?
フェイシャルエステや全身マッサージ、母乳マッサージなどがサービスでついてくる場合が多い。また追加料金を払えば更に回数を増やすことも可能。その他には新生児の沐浴指導、韓医者による診察及び韓薬処方などを体験した。その他はコロナによってプログラム中止となり残念だったが、本来はヨガやベビーマッサージ、新生児の出張フォトサービスなどが用意されていることも多く、毎日飽きずに過ごすことが出来る。
食事や間食の一例(©navicon)■食事は?
1日3食に加え3回の間食が用意され、1日中何か食べていると言っても過言ではない。また韓国では古くから産後の回復にワカメが良いと言われ、産後約1ヶ月程度はワカメスープをひたすら食べる習慣がある。ここでも例に漏れず丼サイズのワカメスープが毎食提供された。(韓国では誕生日にワカメスープを飲む風習はご存知の方も多いかと思うが、それは産婦がワカメスープを飲むことに由来して、産んでくれた母への感謝の意を込めたものだという。入院中、1日3食からなず大量のワカメスープが出されたことは今となっては良い思い出だ。)
また韓国料理と言えばキムチにコチュジャン、コチュカルで味付けされた赤い食べ物を連想するが、さすがに産後は刺激的な食べ物は良くないとされ、彩りは通常よりも地味なラインナップ。とはいっても、韓国人的には薄味(?)のキムチやヤンニョムチキンなどは何度か登場した。
そして間食。筆者の場合午前中はフレッシュな果物ジュースが提供され、午後の間食は果物やクッキー、ケーキといった甘いものから、サンドイッチやキンパといった間食の域を超えているものまで多岐に渡っていた。そして夜は夕食とほぼ同時に出され、お粥(かぼちゃ粥、あずき粥、黒ごま粥など甘いお粥)が日替わりで出された。当初は3回も間食なんてと驚いたが、授乳をしていると夜遅くや深夜に突然空腹感に襲われることがあり、そんな時は冷蔵庫に保管しておいたお粥に何度も助けられた。
■費用は?
ここまで手厚いサービスで1〜2週間滞在となると、かなりの出費になるのでは?韓国人は金持ちなのか?割引が多いのか?なんて疑問に思う人も多いのではないだろうか。
勿論費用はピンキリで、そのため立地や設備の充実度等で一概には言えないが(高級なところはホテルのスイートルームかのような広さと豪華さで一泊でも手が出ない程)、一般的なホテルの宿泊料金程度と考えてよいだろう。それに三食(+間食)付き、新生児のお世話やマッサージ等手厚い産婦のケア等まであるのだから破格の値段といえるだろう。
■筆者が感じた出産に対する日韓の違い
日本と韓国の決定的な違いは、病院においての出産費用ではないかと考えられる。日本では出産育児一時金として42万円が支給されるということだが、対する韓国では筆者が出産した2021年時点で基本60万ウォン、双子の場合は100万ウォン(2022年には基本で100万ウォン、双子の場合は140万ウォンに改善された)とかなりの差がある。勿論、日本でも韓国でも地域や病院によって差があり、一時金内でおさまった人、大きく足が出てしまった人と様々で一概には言えない。それでも韓国では出産の場合にこの支援金内でおさまる人も多くいるということは、そもそもの医療費が日本に比べてかなり安いと言えるのではないか。そのため、韓国の出産費用+産後療養院まで利用して、日本の出産費用とトントンと考えると、利用しない手はないだろう。
またマインドの違いとして感じたことは前述の通り、とにかく韓国では「産後1ヶ月は絶対安静」の徹底ぶりが凄いということだ。入院期間中は旦那さんも病院に寝泊まりして24時間付きそう場合も多く、入院中も殆どの旦那さんが付添人として病室に布団や枕を持ち込み泊まり込んでいた。それは産後療養院でも同様で、自宅ではなくここで寝泊まりし、翌朝出勤する人も多く見かけた(追加料金で食事を追加で提供してくれたり、また場所によっては追加料金を払わずとも、旦那さん用にトーストなどの軽食がセルフで用意される産後療養院もあるそうだ。)。
また産後療養院とは別に産後数ヶ月以内に限って、市や国からの支援金で格安で利用できる「産後トウミ」サービスも存在し、利用する人が多い。知らない人が1日中家にいて気まずくないか?とも思ったものの、結果的に本当に利用して良かった。内向的な筆者でも気楽に過ごせるような絶妙な距離感で接してくれ、日中は授乳以外の赤ちゃんのケアは全てしてくれるため、自宅のベッドで心おきなく昼寝ができたこと、ベテラン主婦の栄養満点の韓国料理が食べられたこと、そして話し相手になってもらい料理を教えてもらったりと充実して過ごせ、圧倒的にメリットが大きかった。また個人差があるだろうが筆者の場合は、期間終了後も定期的に連絡をしてくれ、好意で週末に食べ物を届けてくれたこともあり、正に韓国の情を感じた瞬間であった。今またできるのであれば、産後療養院と併せてこちらも絶対に利用したいサービスだ。
このように産後1ヶ月は一番安静にしていなければならないものの、新生児のお世話でそんなことも言ってられない期間というのが多くの人の認識であると思うが、韓国では徹底的に産婦が休めるような体制が用意されている。
しかしながら勿論良い点ばかりという訳ではない。韓国の2021年出生率は0.81と過去最低を更新しており、日本以上に少子化が深刻な状態。手厚いサポートと筆者の個人的な感覚で伝えているものの、韓国でも出産はやはり女性への負担が大きく非婚主義が増えるなど、日本と同様に様々な問題を抱えている韓国。今後益々とサービスが拡充され、少しでも状況が改善することに期待したい。
今回ご紹介した産後療養院は筆者の過ごした施設であり、地域や産後療養院毎にサービス内容は大きく異なるため、あくまで一例としてご参考にしていただければと思う。またこの数年はコロナにより従来とは大きく制度が変わっていることもご了承いただきたい。
【「パンドラの世界~産後ケアセンター~」を2倍楽しむ】では、各話のネタバレあらすじと見どころなどまとめて紹介している。また、Youtubeにて日本版予告動画が視聴可能だ。
■キャスト
オ・ヒョンジン(タクプル・オンマ)役:オム・ジウォン
(夫)キム・ドユン役:ユン・バク(ユン・パク)
チョ・ウンジョン(サラン・オンマ)役:パク・ハソン
イ・ルダ(ヨミ・オンマ)役:チェ・リ
センター院長チェ・へスク役:チャン・ヘジン
ほか
■スタッフ
脚本:キム・ジス、チェ・ユンヒ
演出:パク・スウォン
◇Youtube予告動画
【作品詳細】【「パンドラの世界~産後ケアセンター~」を2倍楽しむ】