たとえば、無差別殺人が起きたときに感じる「怖さ」は、そうした理由なき殺人が、もしかすると自分をも被害者にするのではないかという惧れのせいでもある。そして同時に、自分の内にも似た衝動があり、その萌芽を感じるためでもある。
この『復讐するは我にあり』の魅力も、実はそのあたりにあるようだ。犯人の無軌道ぶりは怖くもあり、おぞましくもあるのだが、どこかで観る者を惹きつけてしまう。それは、私たちが主人公の持つ怒りや苛立ちに共鳴するものを抱えているからなのだろうか。
大分で、中年男性二人の惨殺死体が発見される。すぐに、かつての同僚、榎津巌が疑われる。とにかく犯罪と服役を繰り返す、地元でも評判の悪い男だった。しかし、彼はすでに行方不明。
その榎津が静岡県浜松に現れ、大学教授を装い、詐欺に殺人とさらなる犯行を重ねていった……。
実話を元にした原作だけに、犯行の描写には凄みがある。これを見ていると、殺人へのハードルの低さは何も現在にはじまったことではないと分かるのである。
犯人役の緒形拳と、その父親役の三國連太郎の絡みが見られる、かなり珍しい映画である。この二人、あまり共演は多くないだろう。さらに、浜松の貸席の女将役の小川真由美が斬新にして見事な芝居を見せてくれる。
『復讐するは我にあり』 佐木隆三のノンフィクションを、今村昌平が映画化。
スタッフ: 監督:今村昌平/原作:佐木隆三/脚本:馬場当/撮影:姫田真左久/音楽:池辺晋一郎/美術:佐谷晃能/照明:岩木保夫/録音:吉田庄太郎/編集:浦岡敬一キャスト: 緒形拳/小川真由美/倍賞美津子/フランキー堺/ミヤコ蝶々/清川虹子/三國連太郎
©1979松竹株式会社/株式会社今村プロダクション
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