第2章 NHKに突撃取材①|NHKを唸らせた「太王四神記」
2007年韓国MBSで放送され、日本でも大ヒットした韓国時代劇ドラマ「太王四神記」と主演のペ・ヨンジュンの魅力を探る。
インタビューは、16日の午前10時30分から。二度目といえども緊張する!今回は、小ぢんまりとした応接室で向き合って座る。ヤバイ!近い!手元の資料を見られてしまう。この資料には、随分失礼なメモ書きもしてある…。しかし、優しく席に促してくださる小川さんの好意に逆らうことはできない。腹をくくるしかない!(小川純子さんは、現在、報道局チーフ・プロデューサーで、元BS海外ドラマの担当者。以下、敬称略。文章中の(〇〇〇)は、記者の心の声!)
Q:NHKで「太王四神記」の放送を決定したのは、ペ・ヨンジュン主演だからですか?(やってしまった!のっけから失礼な物言いをしてしまった!)
小川:いいえ。(笑顔)もちろん大きな魅力ですが、それは決定打ではありませんでした。今までにないタイプの歴史ドラマだというのが一番の理由ですね。
私たちがお話をいただいたときは作品ができる前の企画段階でしたが、ストリーラインを伺って、物語に神話が盛り込んである「太王四神記(以下、テサギ)」がファンタジー歴史ドラマという、新しいジャンルの作品だと感じたのです。ちょっとファイナルファンタジーっぽいですけれどね。(笑)歴史ドラマの定番は、イ・ビョンフン監督の「チャングムの誓い」で経験しましたし、次は、もう少し若い人たちや、いかにも歴史歴史していない作品に興味を持っている人たちにも楽しんでもらえる作品を探していたのです。
Q:神話の部分は、韓国でも少し難しいといわれたりしたようですが…。
小川:そうですね。1話2話辺りは込み入っていますからね。その頃なのか、その後からなのか、日本でも歴史ドラマの映画が増え、新しい歴史ドラマが流行りましたよね。(江口洋介の「GOEMON」なんていうのもあった)ハリウッドでも神話めいたドラマがヒットしています。
Q:どの国も新しい歴史ドラマを探しているのかも知れないですね。
小川:ええ。過去にNHKで放送した「チェオクの剣=茶母」などは、その先駆けだったかもしれません。もっともこちらはファンタジーというよりフュージョン時代劇という感じですが…。(若手俳優を使って、K-POPなど使った現代っぽい時代劇ね)
そうそう、他局さんで人気放送中の「JIN」、あれもファンタジーっぽくて、時空を超えた歴史ドラマですね。今、ああいったドラマがヒットしているところをみると、テサギが時空を超えたファンタジー歴史ドラマの先駆けかもしれないですね。(原作アニメは2000年9月から連載。TBS「JIN-仁-」と同時間帯に、NHKでは「坂の上の雲」があるのに、他局のドラマのことまで、さすが太っ腹)
Q:音楽も素晴らしかったですね。音楽監督に久石譲さんというのは驚きましたね。
小川:ええ、久石さんが音楽を担当したというのは、放送を決定するひとつの要因になりました。ただ、久石さんは前にも韓国作品の経験がおありで、喜んで参加されたようですよ。もっとも、実際にやってみて、時間との戦いが大変だったようですが…(笑)。
Q:東方神起のエンディングも良かったですね。彼らは人気グループですが、日本ではまだ若い世代からの支持が多く、テサギのエンディング曲を歌ったことで、ファン層が広がったかも知れませんね。(今や会員数80万ともいわれるファンクラブがあるだもの)
小川:ええ、そうかもしれませんね。そういえば、東方神起のメンバーも礼儀正しいですね。(礼儀正しいのは、小川さんのツボですね)
Q:放送前に視聴者からの問い合わせはありましたか?
小川:ありましたよ。やるんですよね!って(笑)(念押しされたんだ!)
Q:物語が難解だというようなご意見はなかったですか?
小川:うーーん。こちらが考えているほどのことはなかったです。何しろ、NHKで放送した時点では、ファンの方はストーリーもご存知で、ロケ地訪問も済ませていたりして、準備万端、待ち構えていたという感じでしたから。(恐るべし!)私は最初ストーリーを読んだだけでは、ついていけないなと思ったんですが、出来上がった作品を観て、これだけ人物描写が上手く描けていれば大丈夫だと思いました。特に、タムドクと従兄弟のホゲの関係がていねいに描かれていましたね。
Q:放送後の反響はどうでしたか?
小川:視聴率も想像していたより良かったですが、反響という意味では、冬ソナ(「冬のソナタ」)ほどはなかったです。
Q:便せん20枚のファンレターはなかったですか?
小川:(笑)全くなかったです。きっと視聴者にとって、冬ソナは自分にも起こりえる問題として自身の半生に重ねたけれど、テサギは、作りこまれた作品として、強力なリーダーシップを楽しんだのでしょう。
Q:では、視聴者層は変わりましたか?
小川:ええ、3割から4割は男性でした。家族でドラマを観たというお話もよく聞きましたよ。韓国でも高校生も観たようですね。(タムドクは国土を広げ、ペ・ヨンジュンは歴史ドラマの視聴者層を広げたのか)
Q:ところで、今回は、最初の放送がいきなり字幕版でしたが、なにか理由がありますか?(冬ソナは吹替えだった)
小川:理由は2つです。ひとつは、とにかく早く放送したかった。制作が遅れて、これは予定通りに放送できないなというのが見えてきました。字幕版の方が吹替えより断然早く放送できるので、初回を字幕版にしました。もうひとつは、字幕で観たいという声が想像していたより多かったので、先に字幕版、その後、吹替えで理解を深めていただこうと思ったんです。ハイビジョンユーザーもより強くオリジナル版を希望されますから、あえて字幕版でスタートしました。
ただ字幕というのは、提供される文字数が制限されているため、情報量も圧倒的に少なく、視聴者にとっては大変なリスクを負うことになるので、字幕制作に配慮が必要になってきます。
Q:そういえば、キハの出産シーンで「ムル(水)を持ってきて…」というセリフが、吹替えは「水」、字幕では「お湯」に差し替えてありましたね。(確か21話だっけ?)
小川:(笑)そこまでは、気がつきませんでしたが、吹替えと違って急いでいるとか、焦ってという感覚を、制限された文字で表現しきれないために、そういった配慮をすることがありますね。(字幕ってまるで俳句や短歌だ!大変そうだけれど、面白い)
Q:字幕は、ドラマを輸入するときに提供されるんですか?それとも、NHKが一から作るんですか?
小川:NHKで制作します。やはり言葉づかいとか、使わない方がいい漢字とか、いろいろ配慮すべきことがあるので、よほどの場合でない限り、初めて放送される海外ドラマの字幕はNHKで作ります。(さすがNHK)映画などは、すでに制作されているものを使用したり、NHKで制作したりといろいろあるんですけどね。
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