ムン・サンミンという選択―「愛する盗賊様よ」で示した“支える主演”の価値
KBS2土日ドラマ「愛する盗賊様よ」(은애하는 도적님아)において、ムン・サンミンの存在は派手ではない。だが、その静けさこそが、作品の完成度を決定づけている。感情が激しく交錯する物語の中で、彼は一貫して“揺るがない軸”を担い続けてきた。本作はU-NEXTで独占配信中だ。
●【「U-NEXT」で独占配信の韓国ドラマはこちら】
「愛する盗賊様よ」(脚本:イ・ソン、演出:ハム・ヨンゴル)は、ひょんなことから天下一の大泥棒になってしまった女性ホン・ウンジョ(ナム・ジヒョン)と、彼女を追っていた大君イ・ヨル(ムン・サンミン)の魂が入れ替わることで、互いを救い、民を守っていく危険で壮大なロマンスを描く。
ムン・サンミンが演じるトウォル大君イ・ヨルは、愛する人の前で決して感情を誇示しない人物だ。彼の選択は常に一歩引いた場所にあり、守るために自分を後回しにする。その内向きな感情構造を、ムン・サンミンは声を荒らげることなく、視線と沈黙で描いていく。
注目すべきは、“感情を抑える演技”の精度だ。イ・ヨルは多くを語らない。だが、言葉が発せられない分、表情の変化や呼吸の間が雄弁になる。ムン・サンミンは、その「間」を恐れない。若手俳優にありがちな説明過多を避け、観る側に感情の解釈を委ねる演技が、キャラクターに奥行きを与えている。
本作を象徴するのが、何度も繰り返される“身代わり”の選択だ。矢を受け、剣を前にしても一歩引かない姿は、単なる悲劇性ではなく、イ・ヨルという人物の信念を可視化する場面である。ムン・サンミンは、その瞬間に英雄的な高揚を持ち込まない。恐れや迷いを内包したまま前に出ることで、「守る」という行為を現実的な覚悟として成立させている。
魂の入れ替わりという大胆な設定においても、彼の演技は作品の安定装置として機能している。身体が変わっても崩れない姿勢、視線の高さ、立ち方。ムン・サンミンは、キャラクターの“核”を身体感覚として保持し、物語の非日常性を違和感なく受け止めさせる。
第10話は、ムン・サンミンの俳優としての立ち位置を明確にした回でもあった。感情が爆発する相手役に対し、彼は受け止める側に徹する。その構図があるからこそ、ドラマは感情の独白ではなく、関係性の物語として成立する。主演でありながら、相手を立てる選択を恐れない姿勢は、若手俳優として非常に稀有だ。
ムン・サンミンの強みは、作品全体を見渡す視野にある。自分がどこで前に出るべきか、どこで引くべきか。その判断が的確だからこそ、感情の波が激しい『愛する盗賊様よ』は破綻せず、最後まで緊張感を保っている。
派手な見せ場よりも、物語を成立させるための“沈黙”を選ぶこと。ムン・サンミンは本作で、若手俳優に求められる次の段階をすでに示している。「愛する盗賊様よ」は、彼にとって代表作であると同時に、“信頼される俳優”へと歩みを進めた証明となった。
「愛する盗賊様よ」は、毎週土・日曜21時20分よりKBS2で放送中だ。第11話は2月7日放送、その後U-NEXTで独占配信される。
これまでの全話のあらすじと見どころ、時代背景やキャストや韓国での評判などは【「愛する盗賊様よ」を2倍楽しむ】でまとめている。