ヒヨン(ナナ)が縋った天主教とは?「スキャンダル」で知る韓国カトリックの歴史【韓ドラコラム】

16時20分ドラマ
画像提供:Netflix 「スキャンダル」Netflixで独占配信中

9月18日一挙配信されたNetflixシリーズの韓国ドラマ「スキャンダル」で、ナナ演じるアン・ヒヨンの信仰が明らかになる場面が登場する。

「スキャンダル」は、朝鮮時代、優れた才能を持つ女性“チョ氏夫人”と朝鮮最高のプレイボーイ“チョ・ウォン”が繰り広げる大胆で危険な愛の賭けごと、そしてその賭けごとに絡み合う女性“ヒヨン”の話を描いたロマンス時代劇。

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ヒヨンの義弟であるインホ(カン・チャニ/SF9)がヒヨンの部屋を調べると、障子にこっそりと「十」の文字が書かれている。さらに、そこから『教要序論』も見つかり、彼女が天主教(カトリック)を信仰していることが明らかになる。ヒヨンは人目を忍ぶように部屋の障子に「十」の字を書いていたという描写が、彼女の信仰がいかにひそやかなものだったのかを印象づける。では、ヒヨンが信じていた「天主教」とは、朝鮮時代にどのように伝わったのだろうか。

天主教において「自ら命を絶つことは神の意志に背く大罪」という強い戒律がある。ヒヨンが周囲(儒教社会)から「烈女(夫の後を追って死ぬ美徳)」を期待され、精神的に追い詰められる中で、彼女の心の支えである天主教の信仰は「社会のために命を捨ててはならない(自殺は神への罪である)」というブレーキになっていたのだろう。さらに、ウォンとの愛を知ったのちはますます「生きたい」と願うことに…。

スキャンダル画像提供:Netflix

■「西学」として朝鮮に伝わったカトリック

韓国のカトリックは、ヨーロッパから宣教師が直接やって来て広まったわけではない。18世紀後半、清(中国)を通じて伝わった西洋の学問や思想、いわゆる「西学」の中にカトリックの教えが含まれていたことが、その始まりである。当時の朝鮮では実学(シルハク)が発展し、中国から入ってきた西洋の書物を通じて、自然科学や地理、思想などへの関心が高まっていた。その中からカトリックを信仰として受け入れる知識人も現れた。

1784年には、李承薫(イ・スンフン)が北京で洗礼を受け、「ペトロ」の洗礼名を得て帰国。李壁(イ・ビョク)らとともに初期の信仰共同体を形成した。後に実学者の丁若鏞(チョン・ヤギョン)も、こうした初期のカトリック受容と関わる人物として知られている。

■なぜカトリックは弾圧されたのか

カトリックの教えは、当時の朝鮮社会を支えていた儒教的な価値観と衝突した。特に大きかったのが「祭祀(チェサ)」の問題である。儒教社会では、祖先を祭ることは重要な儀礼だったが、カトリックでは偶像崇拝につながるとして祭祀を否定する考え方があった。

1791年には、尹持忠(ユン・ジチュン)が母親の死後に儒教式の祭祀を行わず、位牌を焼却したことなどを理由に処刑された。これが朝鮮における初期の大きなカトリック弾圧の一つである。

正祖(チョンジョ)は西学や実学に理解を示し、丁若鏞らを登用し、カトリックを公認したわけではないが、弾圧もしていない。しかし、正祖の死後、1801年の辛酉迫害(シニュ迫害)をはじめ、大規模な弾圧が続くことになる。

■ヒヨンの部屋にあった『教要序論』とは?

「スキャンダル」でヒヨンの信仰を示すもう一つの重要な手がかりが、『教要序論』である。

『教要序論』は、17世紀に中国でイエズス会宣教師のフェルディナント・フェルビースト(南懐仁)が著したカトリックの教理書。神、天地創造、魂、天国と地獄、十戒、使徒信条、祈り、洗礼など、カトリックの基本的な教えがまとめられている。

こうした西洋の宗教書が中国を経由して朝鮮に入り、知識人たちが西学として学んだことが、朝鮮におけるカトリック受容につながっていった。つまり、ヒヨンの部屋にあった『教要序論』は、彼女が単にキリスト教に興味を持っていたというだけでなく、当時の朝鮮社会では容易に公にできなかった信仰を抱えていたことを示す重要な小道具なのである。

■「十」の文字に込められたヒヨンの信仰

韓国語でカトリックは「천주교(チョンジュギョ/天主教)」と呼ばれ、プロテスタントは「개신교(ケシンギョ)」と呼ばれる。

「スキャンダル」でヒヨンが密かに書いていた「十」の文字は、キリスト教の十字架を連想させる。さらに『教要序論』が見つかったことで、彼女が天主教を信仰していたことが明確になる。朝鮮時代、カトリックは既存の社会秩序と衝突し、信仰そのものが命を懸ける行為にもなり得た。だからこそ、ヒヨンが誰にも見せないように「十」と書き残していた姿には、彼女が何を信じ、何に救いを求めていたのかという人物像が凝縮されている。

「スキャンダル」を見る際には、ヒヨンの部屋に残された小さな「十」と一冊の『教要序論』にも注目したい。それは単なる小道具ではなく、朝鮮時代の社会の中で生きるヒヨンの心の奥を知るための、大きな手がかりとなっている。

【「スキャンダル」を2倍楽しむ】では、制作発表会レポート、キャスト・キャラクター徹底解説、全話あらすじと見どころ、時代背景、ロケ地などドラマを深掘りしていく。

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