前年の『花の生涯』は、豪華キャストと一年間の長丁場での連続ドラマという、それまでのテレビドラマの枠組を大きく踏み抜こうとする斬新さ、さらには全盛期の映画界とは違った魅力を生み出そうという意気込みに溢れていた。
この『赤穂浪士』は、そうしたテレビ界の野心と期待とがさらに濃厚になっていく。
なお、「大河ドラマ」という呼称は、『赤穂浪士』が放送されている間、新聞が海外に多くみられる大河小説にならって、『花の生涯』では井伊直弼を、今回は大石内蔵助を、まさに大河小説のごとく描いたことから、こう呼んだのである。これ以降、「大河ドラマ」といえば、日曜夜のNHKのドラマを指すようになった。

主人公の大石内蔵助には、テレビ初出演となる映画界の大スター、長谷川一夫を起用。その妻りくには、やはり映画スターの山田五十鈴、吉良上野介には新劇界の重鎮である滝沢修をもってきた。さらには志村喬に淡島千景、越路吹雪などの芸達者に、当時のトップアイドル舟木一夫も出演するなど、配役での話題には事欠かなかった。
また、音楽は現代音楽の雄、芥川也寸志が重厚にして、討入りを彷彿させる曲を紡ぎだし、話題を呼んだ。ここで「大河ドラマのテーマ曲は交響楽」というイメージも確定したといえる。
その結果が、平均視聴率31.9パーセントという高い数字を弾き出したのだろう。
現存しているのは、第47話(「討入り」)と総集編のみである。このシリーズもまた、ビデオテープが高価だったために撮影済みのものは再利用され、放送終了とともに消去されてしまったのだ。
なお、残っている第47話はテレビドラマとしては類をみない大胆な殺陣と、主君の仇討ちという大団円とが相俟って、大河ドラマ史上最高視聴率を記録した(53パーセント)。いまもこの記録は破られていない。
赤穂市は、古くから「入り浜式製塩」による塩田が栄えた土地で、いまも「赤穂の塩」は全国的に有名だ。
藩を挙げての評定が行なわれた赤穂城は天主台だけが残されている。後に櫓、門、塀、庭園などは再建され、いまは二の丸庭園を再建中。本丸に建物は残されていないが、建物の間取りを原寸で再現し、その規模が分かるようになっている。
旧城内には大石内蔵助や他の四十六士を祀る大石神社がある。江戸時代、赤穂浪士とは建前上は逆賊であるから表立って祀ることができず(ひそかに祠が作られてはいた)、明治時代になって創建された。