『お茶漬の味』
小津安二郎監督が前作『麥秋』のスタッフで描く、中年夫婦の愛情のあり方を問うた一本。戦時中に検閲当局から却下された脚本を戦後再び取り上げただけあり、豪華キャストによる絶妙の演技に、感動、哀愁、ユーモアが見事に織りまぜられた秀作に仕上がっている。性格の異なる夫婦の愛情を、ふと二人揃って食べたお茶漬の味に見出すという、小津監督独特の切り口が味わい深い。また、夫婦役の佐分利信と小津作品初出演の木暮実千代ほか、脇を固める役者陣の名演技も見逃せない。 佐竹茂吉(佐分利信)・妙子(小暮実千代)は倦怠期を迎えた中年の夫婦。妻は、お嬢様育ちが抜け切れず、一方、信州の田舎育ちの夫は、そんな妻を気にする風でもなく、生活が豊かになった今でも、質素な生活を続けていた。初めから生活態度や趣味が一致しないまま今日に至っており、耐えられなくなった妙子は、学校時代の友達・雨宮アヤ(淡島千景)や黒田高子(上原葉子)、長兄の娘・節子(津島恵子)などと、茂吉に内緒で修善寺などへ出かけて遊ぶことで、何となく鬱憤を晴らしていた…。
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