いくつもの人生の交錯を爽やかに描いた内田けんじ監督の『運命じゃない人』

昨年公開の『アフタースクール』では、叙述ミステリーのような仕掛けを披露して観客を見事に騙してくれた内田けんじ監督の劇場デビュー作である。
これもまた一筋縄ではいかない作品だ。シンプルに見える物語も、実は企みに満ちていて、話が進んでいくと「ああ、あそこでは、そうだったのか」ともう一度前に戻って見たくなってしまう。

婚約を破棄され、家を出てきた桑田真紀（霧島れいか）。一人で入ったレストランはカップルで賑わっている。一方、サラリーマンの宮田武（中村靖日）は、とにかく善良な人物だ。結婚前提でマンションを購入した途端、彼女のあゆみは消えてしまった。それでも、彼女のことを心配している。そんな宮田の親友、私立探偵の神田（山中聡）は、宮田のために女の子をナンパしてやる。それが、二人で入ったレストランで一人寂しそうに食事をしている真紀だった。ここから真紀、宮田、神田の不思議な関係がはじまる。真紀、宮田、神田、さらにはあゆみ、あゆみの恋人の浅井といった登場人物たちの視点で、ある一夜が描かれていく。だから、時間軸は行ったり来たりを繰り返し、ある人物の「優しさ」が実は「お金目当ての行動」だったりと、裏と表が絶えず逆転する。そして、爽やかなラスト。このラストに至るまで仕掛けが隠れているから要注意である。