たまには、こうしたしみじみとした世界に浸るのもいいだろう。小津安二郎監督畢竟の名作である。けっしてドラマチックでもなければ手に汗握る展開もない。ごく普通の、何でもない話が、名匠の手にかかると珠玉の映画になってしまうのだ。
とにかく、一度は観ておきたい作品である。
周吉(笠智衆)、とみ(東山千栄子)の老夫婦は、二十年ぶりに尾道から東京にやって来た。長男、幸一(山村聰)の一家も長女、志げ(杉村春子)の夫婦も歓待してくれ、熱海まで遊びに行きながら、何か物足りない気がしている。
子どもたちには子どもたちの暮らしがあり、そこに老夫婦が入り込む余地などなさそうに見えたからでもある。
そんな二人に最も暖かく接してくれたのは、戦死した次男、昌二の嫁、紀子(原節子)だけだった。
やがて二人は尾道へと帰っていくのだが……。
誰一人悪人はいないのだが、各々の気持ちがすれ違うことで寂しさが漂ってくる。その機微が見事に描かれていき、そのやるせなさに胸が一杯になってしまう。
笠智衆、山村聰、杉村春子、中村伸郎といった芸達者たちが、小津演出のもと、徹底して抑えた芝居を見せてくれる。さらに、原節子の「輝き」はいつものことだが、彼女の存在が小津作品に占める位置の大きさに改めて感じ入ってしまった。
小津安二郎監督『東京物語』は、いまもなお観る者の胸に迫りくる
スタッフ: 製作:山本武/監督:小津安二郎/脚本/野田高梧、小津安二郎/撮影:厚田雄春/音楽:齋藤高順/美術:浜田辰雄/照明:高下逸男/録音:妹尾芳三郎/編集:仲達美キャスト: 笠智衆、東山千栄子、山村聡、三宅邦子、村瀬禪、毛利充宏、杉村春子、中村伸郎、原節子、大坂志郎、香川京子、十朱久雄、長岡輝子、東野英治郎、高橋豊子、桜むつ子、三谷幸子、安部徹、阿南純子配信期間: 年月日 ~ 年月日
©1953松竹株式会社
54件中1~10件を表示しています。
-
戦時中に作られた『陸軍』に挟み込まれた庶民の戦争観
エンタテインメント邦画スペクタクル[年月日 ~ 年月日] -
戦国時代、「政治」と深く関わった文化人『利休』
エンタテインメント邦画歴史・時代劇 -
VHS誕生秘話をドラマとして描いた『陽はまた昇る』
エンタテインメント邦画ドラマ[年月日 ~ 年月日] -
近未来の日本を舞台に、子どもたちの凄絶な闘いが展開する『バトル・ロワイアル』
エンタテインメント邦画アクション[年月日 ~ 年月日] -
懐かしのパソコン通信時代のネット恋愛を描いた『(ハル)』
エンタテインメント邦画恋愛[年月日 ~ 年月日] -
いくつもの人生の交錯を爽やかに描いた内田けんじ監督の『運命じゃない人』
エンタテインメント邦画恋愛[年月日 ~ 年月日] -
事件からもう40年なのか!石井輝男監督、小川真由美主演でおくる”ファクション”の傑作『実録三億円事件 時効成立』
エンタテインメント邦画アクション -
5度も映画化された『肉体の門』、1988年公開版は、かたせ梨乃・名取裕子ら豪華キャスト
エンタテインメント邦画ドラマ -
美しき母娘の関係の心情の複雑さを描く『秋日和』
エンタテインメント邦画ドラマ[年月日 ~ 年月日] -
中年夫婦の倦怠感を冷静に見据えた小津作品『お茶漬の味』
エンタテインメント邦画ドラマ
54件中1~10件を表示しています。