【鑑賞コラム】韓国ドラマ「社長をスマホから救い出せ!」は実はピュアな感動ドラマ!社長×秘書の主従ラブコメに共感
韓国エンタメの専門家といえるライターの高橋尚子が韓国ドラマ「社長をスマホから救い出せ!~恋の力でロック解除~」の魅力を解説!予告動画は予告動画で公開中だ。
スマホに閉じ込められ脱出したいIT企業のCEO(パク・ソンウン)が、スマホを拾ったイケメン就活生(チェ・ジョンヒョプ)に事件解決のために社長になってもらって、ワケアリ美人秘書(ソ・ウンス)とがタッグを組んだ事件解決をする奇想天外な「社長をスマホから救い出せ!」。
昨今の韓国ドラマは、実に奇想天外だ。どこぞの世界にタイプスリップしたり、異次元のキャラクターと恋に落ちたり、はたまたゾンビと戦ったり。設定だけ聞くと、そのストーリー、成立するのか?と不安を抱かざるを得ないのだが、蓋を開けてみれば共感しきり。あげく号泣ということも多々ある。突拍子もない事件に巻き込まれたとしても、それに向き合い、乗り越えていく主人公たちの生き方が、(陳腐な表現になるが)感動的なのだ。「社長をスマホから救い出せ!~恋の力でロック解除~」も、その類の1本だ。
タイトルからして、なんじゃそれ?だろう。が、乱暴な言い方をしてしまえば、本作、設定など気にしなくていい。見どころはまったく違うところにある。ひとつは、「みにくいアヒルは白鳥だった!」。もうひとつは、「社長×秘書の主従ロマンス」だ。
ピュアな凡人ヒーローが窮地を救う!? 落こぼれ就活生が若手社長に!
主人公は、とあるスマホを拾ったことをきっかけに、大手IT企業の新たな社長に指名されてしまった落ちこぼれ就活生、パク・インソン。スマホの持ち主である本物の社長キム・ソンジュが、大事な取り引きを前になぜかスマホの中に閉じ込められてしまい、インソンを身代わりに仕立てるのだ。何度も言うが、このあたりの設定は深く考えなくてもいい。スマホを通じて、キム社長の指示に従い、社長業をこなしていくインソンだが、根が純朴で真っ直ぐなものだから、腹の探り合いだらけのビジネス社会では風変わりな天才扱いに。そんなこんなで思いがけず社長としての才を発揮していく、凡人ヒーロー、インソンは、果たして会社の窮地を救えるのか、そして、キム社長をスマホの中から救い出せるのか?という内容だ。
最初にも書いたが、惹き込まれるポイントは、2つある。ひとつは、凡人ヒーロー、インソンの魅力だ。生まれつきの御曹司(しかもクール&有能)という韓ドラ定番の主人公とは真逆で、いわば、“みにくいアヒルの子”。白鳥の子ではないため、序盤は、決してキラキラしていない。が、そんな彼が、徐々に誰よりも社長らしく輝き、周囲を魅了していく過程が、実にいいのだ。たとえば、ITの知識などまるで知らないインソンが、社長として自社コンテンツの展望を語る羽目になる場面だ。実は俳優志望で、演技の才はあるのに正義感の強さゆえに業界から追放された過去を持つインソンは、台本のセリフがごとく難しいIT用語を脳内に入れ、「自分は社長だ」と自身に言い聞かせる。社長スイッチが入った彼は、流れるように見解を述べ、皆を説得してしまうのだ。自らを奮起し、堂々と社長らしくなっていく様は、みにくいアヒルの子が実は白鳥だったか!な展開で、愉快かつ痛快だ。と同時に、社長としても俳優としても自信を取り戻していく姿に、思いがけず共感してしまったほど。これは、稀代の詐欺師に仕立てられ、真のヒーローとなっていく「ビッグマウス」(イ・ジョンソク主演)にも重なる部分がある。
また、虐げられている弱者や困っている人を見逃せない性格により、誰も見ていないところで周囲の人を助けていたインソンが、人々を感化し、最終的に多くの人の支持を集めていく展開も、実に清々しい。ピュアで熱い性格が武器になっていくという意味で、高校生ながらエリートの兄に代わって大企業の本部長になってしまう主人公の活躍を描く「ナイショの恋していいですか!?」(ソ・イングク主演)などにも通じるかもしれない。
主人公の成長する姿を体現する俳優チェ・ジョンヒョプの魅力
というように、インソン自身が社長業を通じて学び、成長していく姿が胸を熱くさせる本作。夢を追うこと、会社組織を率いていくこと、人生の選択についてなど、名セリフも多い(そういう意味では、「梨泰院クラス」的)。たとえば、インソンのセリフで、こんな言葉がある。
「いつも選ばれる側で、逆の立場の社長が羨ましかったです。オーディションの時も、就活の時も、なぜ選ばれない?僕にも選択権があれば……と。でも、いざ選択する側になると、1人の人生を、1つの家庭の幸せを、1つの会社の運命を左右する選択だと思うと、不安が先に立ちます。あらためてキム社長の凄さを感じます」
そして、勇気ある者だけが、夢を成し遂げることができると気づいていくのだ。
そんなピュアな凡人ヒーローをのびやかに演じているのが、「わかっていても」の心温かな見守り男子役などで注目度急上昇中の新鋭チェ・ジョンヒョプだ。高身長の抜群のスタイルに、人懐こい柔らかな笑顔が魅力で、等身大彼氏タイプ。見ていくうちに知らぬ間に魅了され、実は白鳥だった!がよくハマるのだ。パク・ウンビンの新作「無人島のディーバ」では男性主人公に抜擢されており、本作でも光る原石の瑞々しい輝きを感じられるはずだ。
社長×秘書の主従なの?恋なの?ソ・ウンスとのバディにも注目!
もうひとつの見どころが、社長×秘書の主従なの?恋なの?な、2人のバディだ。「キム秘書はいったい、なぜ?」のキム秘書(パク・ミニョン)がそうだったように、スマホの中に閉じ込められたキム社長の命で、インソンを補佐していく敏腕秘書チョン・ソヨンの存在は、本作のキー。有能で口がかたく、感情を表に出すこともないAIのようなソヨンだが、インソンのシャツを汚してしまった際は、自分のシャツを脱いで着替えさせるといった男前女子の面も。口数は多くないが、いわゆるツンデレタイプで、インソンの温かさや人間味に触れ、徐々に笑顔を見せていったり、彼のネクタイを直してあげたりと、心を近づけていくさまににやり。
「キム秘書は?」のキム秘書が、オレ様主人に対し、にこやかな笑顔で痒いところに手が届くサポートが売りだったとすれば、本作のソヨンは、何者かもわからぬ新米社長に付いて、表情一つ変えず、なんだかんだと世話を焼き、時にリードし、時に叱咤激励し、男女逆転系のパターン。敵か味方かわからないミステリアスさも漂わせ、果たして、彼女の真意は? そして、2人の関係やいかに、というところも注目ポイントに。そんなワケあり秘書ソヨンを、「リーガル・ハイ」や「トップマネジメント」でもサポート女子を担ったソ・ウンスが好演。新たな秘書像を打ち出した彼女が、気になっていくこと必至だ。
加えて、インソンにあれこれと指示を出す、スマホの中のキム社長役の存在も忘れてはいけない。ほぼ声だけのやり取りにもかかわらず、インソンと奇妙な信頼関係で結ばれていくキム社長を、「空から降る一億の星」や「ブラッドハウンド」(もしくは「リメンバー~記憶の彼方へ~」)などで知られる実力派俳優パク・ソンウンが担い、しっかりと存在感を残している点はさすが。
ちなみに、「スマホの中に閉じ込められた」という奇妙奇天烈な設定は、最後の最後に「なるほど、そうだったか!」と腑に落とされる。途中は気にせず見てかまわないが、しっかり伏線回収されるので、そこもまたオススメである。
執筆:高橋尚子(エンタメライター)
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