【韓ドラ歴史コラム】「恋人」朝鮮が清(後金)に狙われたワケ!実在の崔鳴吉と金尚憲を徹底紹介

2023年08月21日20時00分ドラマ
MBC「연인」より
左:キム・サンホン、右:チェ・ミョンギル

2023年8月4日から始まったナムグン・ミン、アン・ウンジン主演のMBC新金土ドラマ「恋人」が同時間帯視聴率1位を記録するなど人気だ(8月20日時点)。

「恋人」初回から朝廷のシーンが映るたびに2人の文臣が「交戦か、講和か」で論争を繰り返している。ここでは2人の文臣の主張と実在した金尚憲(キム・サンホン)と崔鳴吉(チェ・ミョンギル)を紹介する。
※参考:丙子の乱、朝鮮と清の関係については「「恋人」の時代背景」で時系列にまとめている。



■朝鮮はなぜ後金に狙われたのか?
朝鮮は光海君の時代には、明と清(後金)の「二極外交」でバランスをとっていたが、仁祖の代になると、後金と距離を取り大国・明寄りの「親明政策」に切り替えた。明と断交していた後金は、朝鮮を抜け道として間接的に明と通商できていた。しかし、仁祖によってそれが出来なくなった。そこで1627年1月13日の「丁卯胡乱」(チョンミョホラン)を起こした。朝鮮では崔鳴吉らが講和会談にでて以下のような約定で兄弟関係を結んだ。
・後金を兄、朝鮮を弟とする兄弟国としての盟約であること。
・朝鮮は明の年号「天啓」を使わないこと。
・朝鮮は朝鮮の王子の代わりに、王族の李玖(イ・グ)を人質として差し出すこと。
・後金と朝鮮は、今後互いの領土を侵害しないこと。


■その後も根強く残る“崇明排清”の思想
当時、すでに明の力は弱まっていたが、朝鮮では豊臣秀吉による朝鮮出兵「壬辰倭乱(イムジンウェラン)」の際に、明軍が支援してくれたことへの恩義から「崇明思想」が強く残っていた。また、動物の生き血を飲むなど後金を建てた女真族を野蛮族と見ておりオランケと蔑称で呼んだ。
第6話ではホンタイジ(キム・ジュンウォン)が朝鮮に来たという噂の真偽を確認するため敵陣に潜入したジャンヒョン(ナムグン・ミン)が、疑いを晴らすために生き血を飲むというシーンが描かれた。

■ホンタイジ、目標を明から朝鮮へ
ホンタイジがヌルハチの後を継ぐと、明ではなく朝鮮をたたくことで明をじわじわ追い詰めようとした。そして後金は国号を「清」と改め1636年2月、「丁卯胡乱」で決めた兄弟関係を破棄し、「ホンタイジを大清皇帝」と呼び新たに君臣関係を結び、貢物として3万の援軍を要求してきたのだ。10年前の盟約を破った清を信じられないという声が多数。
※これに憤慨する朝廷や、儒生たちの様子が第1話で描かれている。

■丙子の乱(ピョンジャホラン)勃発
朝鮮はこれを拒否し、同年12月に清軍が鴨緑江を超えて朝鮮に侵入してきた。この時、仁祖は10年前の「丁卯胡乱」の時と同様に江華島に避難するつもりで食料などを運んでいた。ところが清に江華島に繋がる道を抑えられ、国王は1万3千の将兵たちと南漢山城に籠城したのだ。そして戦禍で民たちが苦しんでいる中、南漢山城で47日間もの間、交戦か講和かで紛糾する。その間、義賊たちが立ち上がり援軍を送ったが力の差は歴然。ホンタイジついに朝鮮入りした。
3・4話でもヨンジュン(イ・ハクジュ)たち儒生らが義兵を募って仁祖を助けに向かったが、あっけなく全滅。第5・6話でホンタイジがついに朝鮮入りした。

■論争する2人の文臣
朝廷の画面が出るたびに「交戦か、講和か」で2人の文臣が論争している。交戦を唱えるのが金尚憲(キム・サンホン)で講和を主張しているのが崔鳴吉(チェ・ミョンギル)だ。
※8月21日現在、ドラマではこの辺りまでが描かれた。ドラマではキム・サンホン役を「華政(ファジョン)」で臨海君(イメグン)役を演じたチェ・ジョンファンが演じ、チェ・ミョンギル役を「クイーンメーカー」のキム・テフンが演じている。

■三田渡の盟約
この後のドラマではどう描かれるのかが気になるところではあるが、結局、仁祖は1637年1月30日に降伏。三田渡の壇上に座るホンタイジに、仁祖は三跪九叩頭の礼を取り、以下の5項目を約束させられる。
①明との関係を断つ。
②明討伐の際の軍兵の派遣。
③朝鮮王は清の皇帝に臣下の礼を尽くす。
③朝貢を行う。
④多額の賠償金を払う。
⑤二人の王子(昭顕世子・鳳林大君)と嬪宮や臣下を人質に送る。


以下、実在した2人の文臣の紹介と、それぞれの主張についてまとめている。

■金尚憲(김상헌=キム・サンホン)1570年生~1652年没
キム・サンホンキム・サンホン(チェ・ジョンファン)西人の家門。金克孝(キム・グクヒョ)の4男。伯父である県監の金大孝(キム・デヒョ)が後嗣なく死亡したために3歳の時に養子になる。第14代王・宣祖の時代に科挙に合格して官職に就くが、第15代王・光海君の時代には西人派は政界から疎外され、金尚憲も罷免される。「仁祖反正」で政界に復帰し、1635年には大司憲として再起用される。
▼「丙子胡乱」交戦派
大国、明に誠心誠意仕えることを主張し、最後まで清と戦う「斥和論」を主張。ホンタイジからの降伏の呼びかけがあった際には、降伏阻止のために自決しようとしたが果たせず、朝鮮が清に降伏すると、降伏文書を破って大泣き。1639年に清の人質になり5年後帰国。そんな彼の行動は老論派によって後代の手本になった。彼の本貫は新安東金氏で、彼の子孫から、朝鮮王朝後期において実権を握った人物達が生まれた。ちなみに安東金氏出身の3人の王妃(23代王純祖・純元王后、24代王憲宗・孝顕王后、25代王哲宗・哲仁王后)はすべて彼の子孫である。
※ドラマでチェ・ジョンファンが演じたこの役を、「華政」ではイ・ジェヨン、映画『天命の城』ではキム・ユンソクが演じた。

■崔鳴吉(최명길=チェ・ミョンギル)1586年生~1647年没
チェ・ミョンギルチェ・ミョンギル(キム・テフン)西人の家門。父は永興府使の崔起南。母は参判の柳永立の娘。1605年科挙に合格し、成均館の教官兼役人に。「仁祖反正」により西人が政権を取り戻すと、金尚憲と同じく朝廷に進出する。その後は政界の中心人物となる。
▼「丙子胡乱」講和派
「丁卯胡乱」の時、朝廷の多数が交戦派に傾く中、崔鳴吉は「外見上は和約を結び、内では軍隊を養成して明への義理に背かない」という「清明和金政策」で仁祖を説得し、後金と「兄弟の盟約」を結んだ。ところが1636年、後金は国号を清に改めて12万の兵を率いて丙子胡乱を起こした。交戦か講和かで揺れる中、結局は今度も崔鳴吉が仁祖を説得し、清と「君臣関係」を結ぶ。戦後、崔鳴吉は明に清への復讐を上疏するなどしたことが発覚し、独断での行動だと訴え清に拘禁される。1645年帰国後政界を引退、享年62で他界。結果的に彼の判断で国を救ったが、その現実的な政策は引き継がれなかった。朝鮮と清は、1895年日清戦争で清が敗れるまで「君臣関係」が続いた。
※ドラマでキム・テフンが演じているこの役を、「華政」ではイム・ホ、映画『天命の城』ではイ・ビョンホンが演じた。


画像:MBCより画像:MBCより「恋人」は、17世紀の朝鮮で清が朝鮮に侵攻した戦争「丙子の乱」の兵火の最中に繰り広げられる恋人たちの物語と、苦しみの中で希望を見出す人々の物語を描く本格ヒューマン時代劇。
【「恋人」を2倍楽しむ】では、ドラマの時代背景や実在人物、ネタバレあらすじと見どころ、豆知識など紹介している。

MBCの新韓国ドラマ「恋人」は毎週金・土曜夜9時50分より放送される。

MBCドラマページ(韓国)

kandoratop【作品詳細】【「恋人」を2倍楽しむ】